59 仙人と小間物屋

 むかしむかし、とっても正直で働き者の小間物屋いだっけど。
 ほの小間物屋、隣の村あるいはほの隣の村さ商人(あきんど)行ぐ。ほして一背負い背負って行ったれば、雨降ってきた。雨降ってきて、荷物はだんだぇ重たくなる。濡れる。こりゃ困ったこと始まったと思ったれば、年寄ったじんつぁ来て、
「おいおい、そこの若い者、おれば()()って、んじゃ(行け)」て。
 いや、こだえ重たいな背負った他、人一人背負って行がんねと思ったげんども、根が親切で正直な若者なもんだから、
「ほんでは(んば)らっしゃい」
 ていうわけで、荷物の上さほのじんつぁば乗せだらば、何と軽いこと、背負ったも背負ねも同じだった。タッタッタッタとずうっと行って、少し平らなようなどこさ行ったれば、
「ここで降ろして呉ろ」
 て言うた。ほしてほこさ降ろしたれば、
「いやいや、今まで背負ってもらって御厄介なったから、おれぁ一つ御馳走すっから」
 て言うわけで、腰から何だか竹(つぽ)みたいな出したけぁ、フウッと吹いだけぁ、たちまち酒肴になった。
「あらら、不思議なこともあるもんだ」
 と思って、ほして、まず、
「酒あがらっしゃい」
 酒ばりではうまくないべからていうわけで、女出して、お酌とり。ほうしてこんどは何も食いものなくてはうまくないべて言うたけぁ、鍋出して、ほの鍋はまた何でも出る鍋だ。お刺身ていうとお刺身、煮付けていうと煮付け、鍋からチョイチョイはさんで、ほの老人がごちそうした。不思議なこともあるもんだと思って、「いや、御馳走さま」て、御馳走なったれば、それはほこの山さ住んでいる仙人だったど。ほして、お前はあんまり働き者で正直者だから、何かお前さ御馳走したいもんだと思って、おれがこういう風にして出はったんだて。ほして腹いっぱいなったころ、こんどは、ほの、酒ばすうっと竹筒の中さ吸い込んで、女も吸いこんだ。ほしていろいろな物吸いこんだげんど、鍋だけはほこさ置いだ。
「ほの鍋、お前さ()っから」
 て言うて、ほの仙人はかき消すように居ねぐなってしまった。ほしてほの鍋もらってきて、商人の若者は、何でも「出ろ」て言うたもの出て、大変しあわせに暮したけど。んだから正直に一生懸命働かんなねもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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