34 嘘つき息子

 むかしむかし、ある村にとっても嘘こきで嘘こきで、何とも仕様ない息子いだった。親父は心配して心配していた。嘘とホラのぶっ通し、何でも、いやまず、人目()れくて仕様ない。
「こだな野郎、投げて()んなね」
 ていうわけで、親父は俵さくるんで、ほして息子ひっかついで行った。ほして村はずれまで来たらば、村はずれの酒屋のとこまで来たらば、酒の匂いプーンとして来たれば、親父は我慢さんねぐなった。ほして息子ば家の前の柿の木さ吊るさげて酒飲み入って行った。ほしたれば俵の中さ入った息子は、ほれ、向うから腰まげたじんつぁ来た。
「若くなれ、若くなれ、若くなれ」
 て言うた。何だと思って、じんつぁ、ひょいと腰伸ばして、(つれ)(んぽ)つっぱって見たれば、「若くなれ、若くなれ」て言うた。
「若くなれなて、どういうわけだ」
「いやいや、じんつぁ、じんつぁ、おれもお前ぐらいな年だった。この俵に入って、〈若くなれ、若くなれ〉て言うたれば、こりゃこの通り若くなった」
「何だ、若くなったなて、若くなったなていうどこでない。いや、つうと若くなり過ぎた」
「どうだ、じんつぁ、入ってみねが」
「若くなんなだらええな、んでは入らせてもらうか」
「んでは、糸目解いでけろ」
 て言うて、ほの中さ、じんつぁ代りに入った。ほうして、タッタッタッタッと家さ戻って行ったはぁ。親父はほだごと知しゃねんだし、酒ある程度飲んで、ええ機嫌になったもんだから、「野郎、一つ」と思って出はってきたら、
「若くなれ、若くなれ」
 なて言うな、ちょえっと見た。したればええじんつぁ、ほれ、俵さくるまってぶら下っていだっけ。話聞いで、
「なんだ、おら家の野郎、ほに、ほだごどばりいたずらして、おえねえ(いけない)野郎だ」
 て言うわけで、また、
「こらこら、この野郎」
 て、また押えらっで俵さ入れらっでしまった。して、ひっかついで、
「こんどは川さぶち投げて呉んなね」
 と思った。ほして俵さくるんでひっかついで、トコトコ行ったれば、また酒屋んどこまで行ったら、酒ぷーんとしてきたれば、我慢さんねぐなった。んでまた柿の木さぶら下げておいた。
 と、向うから杖ついだ座頭来た。ほしたけぁ、「目の用心、目の用心」て始めた。
「何んだ、目の用心、目の用心て、おれは目の見えねえもんだげんども何者だ」
「いやいや、実はおれも盲目だった。俵の中さ入って、目の用心、目の用心て、千人の(まなぐ)さふれっど目開くていうたもんだ。ほりゃ、おれぁパッチリ開いた、お坊さま、解いで下ろしてけろ、まず」
 ほして手さぐりで結び目()けで、坊さま、おろしてけだ。二人は交代した。ほして家さ戻ってきた。ところが親父は酒ええころかげん飲んで行ってみたれば、座頭入って、「目の用心、目の用心」て、いた。
「いや、わけ聞かねてもわかったはぁ。さっきそういうことあったから、いやいやお坊さま、失礼いたしました。おら家の息子のいたずら野郎、いたずら野郎で、何とも仕様ない野郎だず」
 ていうわけで、ほして坊さんば解きはなして家さきた。
「いやいや、家の野郎には仕方ないげんど、他で嘘つかれるより、家の中で嘘つくぐらい仕方ないべはぁ」
 て、ほれから投げんなあきらめだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(上) 目次へ