33 泥棒治す薬

 むかしむかし、何でも治すていう医者いだけど。ほして大がいの病気はスパスパ治す。いや治す腕も大したもんだげんども、ホラ吹くのも大したもんだから、村人は、
「あの医者、一つひっこませて呉らんなね」
 ていう気持もあったわけだど。ところが、折々みな考えた。
「ほだらば、何ええがんべ」
「いや、泥棒治す薬なていうな、あんまい」
「ほいつぁ、ないわけだな。んだらば」
 ていうわけで、
「先生、泥棒治す薬ざぁ、あるもんだか」
「ある、ある」
「はぁ」
 ある時、村人で、あっという間に泥棒してしまった。()れぐもないんだげんども、盗癖ていうんだか、癖で自分がすねべ、すねべと思っても、はっと泥棒してしまう人いだった。
 んで、誰にも()けらんねでいだげんども、ほの人は〈粉糠盗人〉なて()れる。大きいこともしねげんども、盗み癖は(なえ)ったて治らね人いだっだど。
「んでは、ほの薬もらって見っか」
 て言うたど。したれば、村の人はみんな言うたど。
「ああ、なんだ君、泥棒しったのか」
「いやいや、ほうでないげんども」なて、ちょえっと誤魔化して、ほの薬もらった。ほして、
「この薬は泥棒すっだくなったら飲め」
 て教えらっだ。夜中になって、ほの薬飲んで、
「まさか、ほだごどあんまい」
 と思って行って、泥棒すっど思って人の家さ忍び込もうと思った頃、何だて咳出て、咳出て、咳ばっかりでない。アクショ、クシャミも出る。何とも、アクショと咳の連発すんのではぁ、人の家さとても入らんねくて戻ってきた。ほしたけぁ、「何たった」て、村の人に聞がっで、
「いや、効く薬だ、効く薬だ」
 て。ほしてほの薬は泥棒ば治す薬だけど。決して、ほの薬飲んでから、泥棒さんねけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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