26 須佐男命

 むかしむかし、須佐男命さまていう偉い人がずうっと旅しったれば、川上の方から箸が流っできた。箸流っで来るのには、この上にも人が住んでいんなだべていうわけで、ほこ、ずうっと登って行ったれば、村中みな泣いっだけはぁ。
「なして、村中泣いでいるんだ」
 て言うたれば、
「実は、ここに何か妖怪変化のような者いて、人年貢上げねど、全部田畑荒さっでしまうなだはぁ」
「妖怪変化ていうの、どういうのだ」
 て言うたらば、
「頭が八つある蛇だ。いわゆる八股の大蛇(おろち)ていう蛇だ」
「そうか、んだらば、おれがはいつ退治してやる」
 ほういうわけで、
「八つのカメさ並々と酒汲いでおけ」
 ほして、人身御供になる娘とすりかえて、酒を置いて、そういう風に教えだ。村中の人ぁ、みなカメさ並々と酒ばそそいで、待ってだれば、やっぱり八股の大蛇が来て、八つのカメさ八つの頭つっこんで、蛇は酒大好きなもんだから、ズワズワ飲んだ。
 ここらでええと思った須佐男命さま行って、片端から、はいつ、ぶった切ってその八股の大蛇ば退治した。ほうしてその蛇ば切って行ったらば、尻尾の方にチャガランていう音する。おかしいなぁと思って切り開いてみたらば、中から一振りの刀が出はってきた。それがアメノムラクモの剣と名付けて、天子様の三種の神器、それ持たねど、天子さま継承さんねていう。ほして刀をお土産に、また人身御供になるところの娘はクシナダ姫ていうた。そして、クシナダ姫もお伴してゆうゆうと引上げてきた。どんぴんからりん、すっからりん。
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