21 不思議な織物

 むかしむかし、戦国時代に、どこの殿さまも年貢の取立てがきびしいがった。百姓町人が楽でなかった時代、ある若者が考えた。
「ただいて、百姓町人ば縛り上げて、ほしてすばらしい生活している。何かうまい方法ないか」
 と考えだれば、やっぱりええ考えあった。はいつは何だかて言うど、
「ウグイスの声ば縦糸にして、モズの声を横糸にして織る不思議な織物、こういう織物を持って行って、殿さまさ売ることだ」
 と、こういうこと考えた。ほして、はいつ城中さもって行って、
「この織物、買ってけらっしゃい」
 ところが、そこのお側付きの役人が、
「何だ、さっぱりないでないか、見えねでないか、どこさ持って来たんだ」
「はぁ、これは異なことおっしゃる。あなたさまは何職でございます」
「おれはお側付きだ」
「ははぁ、あなたはお側付きは適当でないと思われる。この織物見えね人は、御家老さまであろうと、殿さまであろうと、その職に適当でない人さは見えない、適任者には見えるものだ。何せ、縦糸がウグイスの声、横糸がモズの声で、不思議な織物だ。この織物さえ持ってれば、鬼に金棒、財産はふえる。ほらええぐらいには付けるていう品物だ」
「一反なんぼだ」
「三十両にござります」
「んでは、只今から取り継ぎすっから」
 て、家老職が出てきた。
「どれどれ、その織物見せろ」
「はい、これでございます」
「ほう、これは立派な織物だ。これか、ウグイスの縦糸にモズの横糸ていうな」
「はい、さようでござります」
「ほう、よく織り上がってる」
 見えねて()んね、自分が家老職適当でないて言われっから、そして殿さまもって行った。殿さまもはいつ見っだけぁ、
「うん、なるほど立派な織物だ、いかほどだ」
「三十両にござります」
「よし、三十両は安い」
 ていうわけで、買ってよこした。ほしてその若者にまんまとやられたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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