20 効き鼻

 むかしとんとんあったんだど。
 あるところに、とっても正直で働き者の若衆いだんだけど。で、ある日もタガラ背負って、ほして畑さ行くべと思ったれば、何だか天狗の鼻みたいな落っでいだっけ。
「こいつぁ、おもしゃいもんだな」
 と思って、その鼻、ちょいっと拾って自分の鼻さちょぇっとふっ付けで見たれば、取んねぐなった。
「こりゃ困ったことになったもんだ」
 と思ったれば、その鼻ふっつけだらば、ええ匂い、どっからともなくしてくる。して、鼻ひくひくさせながら、ええ匂いのする方さ行ってみたれば、きれいな花出っだけて。
「はぁ、こだえきれいで、こだえ匂いのええ花なて珍らしいから、家さ持って行って植えでおくべ」
 て思って、はいつ取ってタガラさ入っだ。ほしてずうっと畑さ行くべと思ったれば、白髪の老人が現われて、
「これこれ、若者」「はい」
「鼻、返せ」
「はい、花返せて、花だればタガラさ背負った花だべがっす」
「いやいや、ほでない。お前の鼻さふっつげっだ鼻返せ」
「はい、今、ふっつけだばりだから…」
 て言うて、無理無理もいで返したど。ところがほの老人曰く、〈お前は正直もんだ、お前の背中さ背負った花は、これは千人の病人を治す力をもった花だ。ほの匂いをかぐど、何た病気でも、たちどころに治る。ええか、ゆめゆめ不沙汰にすんなよ〉
 て言うけぁ、すうっといねぐなった。
 ほだえしているうち、ほの話拡がって、殿さまのお姫さま、体悪れがった。して、ほこさ、ほの花持って行って、匂いかがせだれば、たちまちええぐなった。殿さま、
「お前、ほの花、おら()()で行ってけろはぁ」て言うた。
「いやいや、お言葉だげんども、千人の人を治さんなねなだ。んだから、これから急いで帰って、村中、あるいは隣村、ほの隣村、体悪れ人、みな治して、千人治したら、また来ます」
て言うて行った。
 ほして、次の日から次々と病気を治してやって、ほして千人全部治して、こんど病人いねぐなってはぁ、ほして殿さまのお姫さまとめでたく結婚して、聟どのにおさまったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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