18 さいわいの化げもの

 むかしとんとんあったずま。
 ある村に、一軒の古びれた家があって、ほこさ誰も住まんねんだけど。夜中になっど、化けものが出る。ほして、コヤコヤ、コヤコヤて化けものだ語っては居ねぐなり、語っては居ねぐなったりする。そういう一軒家があるんだけど。
 ところが、ある時、一人の侍が訊ねてきて、
「ここらさ、どこか泊っどこないべか」
 て聞いた。ある人が、
「ほの空家あっけんども、化けもの出る」ていうたけぁ、
「いや、おれぁ、化物出だって()なねぇから、そこさ厄介ならんねべか」
 て、ほこさ泊った。ほうしたれば、夜中ぇなったれば、やっぱり黄色い裃着った化けもの出てきて、
「ほりゃ、さいわいだ、ほりゃ、さいわいだ」
 ていう。ほだえしったら、今度ぁ白い裃着ったな化けもの出はってきて、やっぱり「さいわいだ、さいわいだ」て言うた。ほの侍が、
「もしもし、ちょっとおたずねしますけど、あなた方、何者だ、おれは今晩ここさ御厄介になったげんども、なして何かの怨みでもあるんだか」
 て聞いだれば、
「いや、おらだ、ほでない。ここさ生まっだ銭の精だ」て。
「ほんでは、あなた方だ、こうして出はんなが、世の中さ出っだくて、毎晩出はんなだか」
「んだ、どうかおらだば掘り起して、シャバさ出してけらっしゃい」
 て。ほだえしているうち、ほのぼの夜明けだ。村人は、
「化けものに()っでいねはぁ」
 と思って来てみたれば侍はちゃんといだっけて。そして村人さ、
「実はゆんべな、やっぱり化けもの出だけ。んだげんども決して悪れ化けものでなくて、裃着った。こういう風な黄色の裃、白い裃、黒い裃の人が出て、〈さいわいだ、さいわいだ〉ていう。どうか村人みんなして掘ってけらっしゃい」
 て。ほして次の日、村人足出て掘ってみたれば、黄色い裃着ったと思ったなは大判、白い裃は小判、黒い裃は一文銭。ほうしていっぱいの銭出てきて、その旅の侍は、
「こいつ、村中して分けてけらっしゃいて、娑婆さ出っだくて娑婆さ出っだくて、何とも仕様がなくて、止むにやまれず化けものなって出はったもんだから、お前だに使ってもらうど、何よりも〈さいわいだ、さいわいだ〉て、夜出はってきったんだから」
 て言うて、
「ほだらば、お侍さん、あなたも(なん)ぼか取ってけらっしゃい」
「いや、おれは諸国修行する身で、銭はいらね」
 て、かき消すようにいねぐなってしまった。ほしてほの銭、村中みんな分けて裕福に暮して、ほこさこんど次の日から化けもの出ねがったどはぁ。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(上) 目次へ