17 金持ちと托鉢僧

 むかしむかし、あるところに、どっからともなく住みついたお坊さんが托鉢しながら、そこらの人さ説教したり何かにして布教してだお坊さんいだったど。
 ほして貧乏なもんだから、毎朝夕、托鉢に廻っかった。んで、ほこの村で一番金持ちの、倉四つも五つも持って、ほこさ、ぎっしり米積んでいる人が、さっぱり何もめぐんだことなかった。
 ほしてある時に、ほこさ行ってお坊さんがお願いした。
「何とか一つ、おねがいします」て。
「いや、おら家では、乞食坊主さなの()る米や、何かい、何もない」
 て言うて、はねつけだったど。ほうしているうちに、そのお坊さんが行かねくても一人して、托鉢が村中廻る。
「不思議なもんだ」
 ていうわけで、村の人みんなそれさ寄謝した。少しずつ御飯、お菜、漬物、いろいろしたげんど、ほこの家ではさっぱりすねがった。ところがある月夜の晩に、米倉がばだばだ、ばだばだそうぞうしい。何だと思ったれば、戸はずっで、錠前掛けっだ戸はずって、中から米がどんどん、どんどん飛んで行く。一俵、二俵、三俵…百俵の上も飛んで行ぐ。その先見たれば、托鉢の鉢めがけてみな飛んで行ぐ。ほしてほの家の旦那さま、
「いやぁ、待ってでけらっしゃい、待ってでけらっしゃい。こんどから決してこういうことしねから、待ってでけらっしゃい」
 て言うたば、その鉢が待ってだっけて。ほして、
「いや、おれ悪れがった」
 て、それから、
「托鉢来た和尚さんさも必ず、つうとずつ、お上げしますから、何とかほの米だけ持って行かねでけらっしゃい」
 て、お願いしたったて。んだから、あんまり欲ふかくさんねもんだって言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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