8 舐めくらべ

 むかしむかし、若衆だ、藁仕事小屋さ集まって、賭けていうなすんなだけど。ほして、いろいろな賭けあったげんど、
「んだら、おれ、一時間に砂糖二十五貫目舐めてみせる」
 ていう人いだっけど。
「ほだえ舐められるもんであんまい」
「いや、舐める。ほのかわり、おれの言う通りしてもらわんなね」
「いや、二十五貫目なの舐めっこんだら、(なえ)たことでもすっかり舐めてみろ」
「んでは、酒一升賭けて…」
「酒一升なて、いまといっぱい出してもええっだな。ほだな。二十五貫目も舐めんのだったら…」
「いやいや、無理すんな」
 ほして、樽からドンコイショ、ドンコイショと金槌(かなてこ)で掘って、ほして、はいつば直径五寸ぐらいに、みな団子に丸べてもらった。ほして何故すっど思ったら、
「ああ、まだ三十分ある。まだゆっくりええこら、いま二十分ある。どうれ、もう十分だから舐めっか」
 て言うたけぁ、片っ端から舐めた。残りなく、つるっと舐めたど。舐めること舐めたげんど食うでなかったそうだ。舐めた人に酒一升とらっだけど。
 ほれから、一升て名のついたっだものは、何でも食うていう人いだったて。人の食うものであればな。ほしたれば、
「塩一升()いが」
「ほだな簡単だ」
 ほして、やっぱり塩一升出さっだ。ほうしたれば、最初ペタラペタラて舐めっだけぁ、中ほど、べろべろ、べろべろて舐めでって、塩一升つるっと舐めた。
「ほんでは御馳走さま。んでは、賭けた酒五升もらったぞ」
 て行ってしまった。
「いや、医者でも呼ばってはぁ、親類衆でも集めっだ、んねがはぁ」
 ていたら、次の日、何てもない。額のあたりさ、つうと(少し)汗かいたような跡ある。なぜすんなだと思って見たれば、熱いお湯立てて、ほして、はいっちゃ入っど、塩はみな汗になって吹き出すのだけど。
 ところがはいつ憶えらっで、(せい)風呂(ふろ)のドウ抜がっだ。ほうしたれば、七転八倒の苦しみで、お湯湧くまで死ぬか生きっかていう苦しみしたったど。それからほの人、賭けしねがったどはぁ。どんぴんからりん、すっからりん。
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