3 むけの朔日

 むかしむかし、むけの朔日というな、したもんだ。そいつ、どういうわけだかていうど、蛇でも蟹でも、蚕でも脱皮する。()ける。人間も剥ける。
「人間、剥けるなてないべぇ」
 て言うたら、
「いやいや、ほうでない。われわれから見っど、蛇や蟹や蚕なにかいの()ける殻見えっけんど、彼らには見えねんだ。おらだのも剥けでっけんども、蛇や蚕から見っど、人間の剥け殻、桑の木さ、ふあっと引掛ったり、ほら、田んぼの田の草取りしったどこさ引掛ったりして、剥け殻みな見えるんだ。はいつ何時ごろ剥けっかていうど、人間の、丁度今から暑くなっどき、六月一日ごろ剥ける。んだから、六月一日ば「ムケノツイタチ」て言う。むけるに難儀しねで、そろそろて剥けるように、トロロを食って、氷水飲んでむける行事ば、昔から「ムケノツイタチ」て言うたもんだ。どんぴんからりん、すっからりん。
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