93 石油の由来

 むかしむかし、ある村で田植した。ほして毎年、米、ええあんばい穫っていだんだげんども、何だか、水なのかけねげんど、黒い水ぁずうっと田さかかって、田は地金減って行く。植えたときよりだんだぇ悪くなって行く。なんぼ肥料(こやし)してもわかんね。昔だから、ほれ、粉糠ふったり、何かえしても、田はなおんね。分結もしね。だんだぇ、こう、おかしなこともあるもんだ。
「米穫んねど、こりゃ困ったこと始まる」と思っていた。ほして、
「いや、仕方ない、一服つけんべ」
 て、百姓はほこで(けっつ)ついで一服して、火打ち石でカチャリン、カチャリンと火打鳴らして、熊のホクチさつけて、煙草喫むべと思ったら、その火もれて、ほして田の水燃えはじまった。えんえんともえた。
「はぁ、こりゃ燃える水だ」
 て、ほっから皆もえる水汲んできて、ほして、菜種油つかった灯芯ランプ燭台なていうものさ使ったれば、大変便利だった。はいつが今の石油の油田だったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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