76 ねずみ浄土

 むかしむかし、あるどこにじんつぁとばんちゃいで、ほしていろいろ、豆だ米だて、つうとこぼっだり、余ったりすっど、
「ああ、ねずみちゃ食せろはぁ」
 ていうわけで、あんまり(こま)くしねで、孔からちょろちょろ、ちょろちょろと節孔から落としてやったり、庭さ掃き捨てたりしておいた。はいつ、おこぼれ頂戴して、ほれ、ねずみだ、ええあんばい暮していた。ねずみだも折々、
「ほだえ、おらだ、こりゃ、じんつぁにお世話になって、いつか恩返さんなね」
 て思っていた。ほしてある時、ねずみはじんつぁ来て、
「じんつぁ、じんつぁ、おらだ心ばっかりのことしたいから、おらえの家さ、()じゃてけらっしゃい」
 て言うた。
「んだて、お前の家、孔ちっちゃいべし、あれだべな」
「いや、さすがえない。ちぇっと(まなぐ)つぶってけらっしゃい」
 じんつぁ、ちょぇっと目つぶったれば、じんつぁの頭の上さ、尻尾ちょぇっとのせたけぁ、何か呪文となえて、〈はい、目あいでけらっしゃい〉て言うたれば、すばらしい広いお座敷なんだけど。ほこさ行って、ほれ、うまいもの御馳走になって、ほうしてお酒御馳走になって、
「いやいや、満腹だ、たくさんだ」て。「家さ行ぐだいがらはぁ、さいならだ」て言うたらば、「んでは、ちょぇっと待ってけらっしゃい」ていうわけで、大判小判いっぱい背負わせて、「んでは、じんつぁん、目つぶってでけらっしゃい」て、目つぶったれば、頭の上さ尻尾ちょぇっと上げて、何かムニャムニャて言うたけぁ、「はい」て言うたれば元の自分の座敷さちゃんと来て、ほして大判小判いっぱい背負せらっできた。はいつ聞いた隣のじんつぁ、「おれも」ていうわけで、ねずみさ頼んだ。ほしたら、ねずみは、ほれ「ええっだな」ていうわけで、隣のじんつぁばも、尻尾頭の上さあげて、その部屋さ()て行った。ほしてさんざんぱら御馳走になって、ほうしたれば、
「うん、おれは帰っから、土産もの用意しろ」
 て言うた。ほうしたれば、すばらしくいっぱいの銭もって来たって。ほいつ皆欲しくなったんだど。隣のじんつぁ欲ふかだから。
「ははぁ、こんではうまくないから、どれ一つ、猫の真似でもしてけんべ、ニャオー」
 たれば、「猫来た!」ていうたけぁ、みなねずみぁ逃げだんだど。ほうしたれば真暗ぐなってはぁ、部屋どこでなく、何だか「ゾゾー、ゾゾー」て、ほっつから土落っで来るような、こっちからも土崩っで来るような気して、じんつぁ、こんどは一生懸命、手でほじぐって、隣のじんつぁ、ほれ、逃げんなねわけだど。真暗だべし、どっちどう掘ったのかわかんねげんど、あっち掘りこっち掘り、ほうしてずうっと掘って来て、ほうして固だいのあっけど。固っだいななんだべ、ここ掘らねど出はらんねど、こらて、ガツガツ、ガツガツ手でして、やっと、ほこ固いなば、やっとのし上げだれば、ひょこっと出はって、はいつ自分の家の庭の藁打ち石の下だったど。ほうしてほっからやっと命からがら出はった。ほうしたれば、指の爪みな抜けてないがったどはぁ。んだからあんまり欲深いずるいことすっど爪抜けんぞて、昔の人は、ほういうどっから言うたんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ