75 まま子いじめ

 むかしむかし、あるところに夫婦者いで、ほしておかちゃんが一人の女子(おなごこ)()してはぁ、間もなく死んでしまたはぁ。
 ほして、おっつぁんが若いもんだから、後かかもらった。後かかさも今度ぁ子ども生まっだ。ところが後かか、先腹(せんぱら)の子どもめんごくなくて、めんごくなくて仕様ない。なぜかしていびり出しだいげんども、世間態もあるもんだから、ほれもさんね。
 ところが、だんだぇ、先腹の子どもが顔青白くなって病人みたいになって行ぐ。おやじも不思議だなぁと思ってだげんども、なしてなるんだかなぁて思っていだげんども、まさかどういうことあっかていうことは解らねがった。ところがほの娘が寝でっど、夜、鬼かかり来る。ほうして冷たい(べろ)でぺたぺたて舐める。だんだぇ、だんだぇ、がおって行く。ほして最後に、鬼が言うて行ぐ。
「ええが、このことは決して他言無用だ。人さ言うてなんねぇ。人さ言うどお前たちまち死ぬぞ」
 ほういう風に()っだ。んだげんどあんまりがおって行ぐもんだから、おっつぁんが心配して、娘さ、
「なしてお前、ほだえ体でも悪れが」
 て言うたれば、最初黙っていだげんど、ほの娘は、どうせ死ぬんだらと思って、おれさばりでなく、ほの妹ださも来るでないかという気あったもんだから、一部始終語ったど。
「夜、赤い角生えっだ鬼来て、おれば舐めるんだ」て。ほして、
「んだら、ええ。おれ今夜、お前ど床代わって、お前寝っどこさおれ寝っから」
 て。はいつ知しゃねで鬼ぁまた、こそりこそりと来て、赤い角生やして、ほしてコンニャクの舌で舐めはだたわけだ。「こりゃ!」て言うけぁ、おやじにいきなり押えらっだ。
「何すんなだ」
 ほして一部始終わかったんだけど。ほの鬼の角に見せだのは、人参で鬼の面かぶって、舌はコンニャクだけど。ほうしてコンニャクの冷たいので恐怖感抱かせて殺す勘定だった。はいつがばれて、継母がおっつぁんにおさえらっで、
「今度から、こういうことしねが」
「いやいや、おれ悪れがった、おれの心得ちがいだ」
 て、うんと反省して、ほして当り前のおかちゃんになったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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