68 縁切り

 むかしむかし、昔はどこの村でも人逝くなったりすっど、土葬と火葬どあって、その火葬場ていうな、村毎にあった。ところがある人が町ちゃ用達しに行って、十時頃帰ってきてみたれば、その火葬場の燃え残りの火のどこで、ぴらぴら、ぴらぴらて、女の人いた。ほっちゃ行ったり、こっちゃ行ったり、ちらこらちらこら歩く。
「はて、幽霊ざぁ、かいつのごんだべかなぁ」
 て思ったげんども、ほの人は胆の坐った人なもんだから、ほこさそぉっと行って、して、その幽霊みたいな人ば押えでみた。ほうしたれば、
「やぁ、許してけらっしゃい、許してけらっしゃい」
 て、ほの人言うたったて。
「なんだお前、今頃こだんどこいて」
 て言うたれば、
「実はおれは、亭主ば嫌いで嫌いでなんねくて、別れっだいげんど、なぜすっど別れられんべて聞いだれば、火葬の火の灰とオハグロと練って歯さつけっど、縁切りになるど。んだから縁切れるように、こうしったんだ」
 て言うて、幽霊でもないくて、縁切りのためだっけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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