67 狐と狸の化けくらべ

 むかしむかし、野っ原で狐と狸が行き会った。ほして、いろいろ四方山話しているうちに、とうとう自慢話になって、化けくらべになった。
「おれはお前より上手に化ける」
「いや、おれぁ上手に化ける」
 ほして、「んだら、何時(いつ)何日(いつか)どこか二人ぁ会って、ほしてこれがお前だって分からっだら、分からっだ人負け、こんでどうだ」
「ええがんべ」
 というわけで、「ほんでは、何刻、何刻、ええか」ていうわけで、二人が別っだ。丁度お月さま、十五夜こうこうと出る晩、狐は花嫁に化けて行った。ほうしてシャナリ、シャナリ通る人どもない道をずうっと行った。なんだかなんぼ行っても行っても、待ってでも狸ぁ化けて来て、ここらでちょっと一休みでもすっかなぁと思ってだれば、プンプンと何だが油揚げの匂いして来た。
「ほう、誰か油揚げでも落して行ったかな」
 と思って、その油揚げ拾って食うべと思ったら、「いたた…」と。
はいつは、狸が化げだんだったど。
「どうだ、おれに負けたべ」
「いや、これはしてやられた」
 ていうわけで、その場は狐ぁ狸に負けた。
「んだらば、おれ、何時(いつ)何日(いつか)、ここの街道、殿さまに化げて通っから、ほんどきどれが、おれが化けたんだか見やらかしたら、お前の勝、()けらんねがったらおれの勝だ、どうだ」
「ええがんべ」
 ていうわけで、ほだえしているうち、「下に、下に」ていうわけで、殿さま通った。いきなり飛び出して、殿さまに化けだべと思って、殿さまんどこさ行ったら、いきなり役人に脇腹蹴らっだ。いや痛いことったて、キャンキャンていうて逃げてきた。ほうしたら、狐ぁ出てきて、
「あいつぁ、おれ化けだなでなくて、本物だった。本物見破らんねだけ、おれより神通力ないなだ、化け方下手なだ」
 て、二人はあいこだっけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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