115 昔語り

 むかしむかし、あるところに王さまいだったど。
 ほしてある時、家来全部()て、狩に行った。その間、妃さま留守しったんだげんど、ふいに帰って来てみたれば、その奥さま、黒人と不義結んでいた。それをごっしゃえだ王様が、たちまち妃さまば殺してしまってはぁ、ほして女ていうな信じらんねぐなたはぁ。次々と夜伽ぎにつかせて殺す。一晩夜伽につかせては殺した。ほして殺して、だんだぇ殺して行ったもんだから、女も少なくなって最後にこんどは宰相の娘。
 ところがその妹娘ていうな、とっても利発だった。ほしてほこさ行った。ほして一晩夜伽について物語りが続いて、ほして決して読み切りていうな、ない。こっから先、ほんて面白くなった時、「明日の晩だはぁ」て言う。ほの続き聞きたいもんだから、王様、殺さねでしまったはぁ。
 またその次の晩も、物語り始める。いわゆる今だったら〈むかし、とんとん〉みたいなもんだったど。ほして、読み切りもの語らねで、本当にいまつうとで面白くなるというときに、「パタッ」と切って、「明日の晩」。またほれ、はいつ聞きたいもんだから、、はいつ殺さねでまた次の晩に延ばした。それがえんえんと千一夜に及んだ。三年間もそういう語り口したって。ほしているうちに、宰相の娘は、
「王様、そうしているうちは、あなたは社会的にも人道的にも、ええぐないごんだ」
 ていう風に、自分、自作の昔話をずうっと語って行って改心させた。したれば千一夜に及んだ頃、
「いやいや、おれは今まで悪れごとしていたんだなぁ」
 ていうな悟って、ほして殺すな()めて、
「お前、おれと一緒になってけろ」
 ほしてとうとう、ほの宰相の娘が王様と一緒になったけど。んだから、頭のええ人にはかなわねもんだって、昔から言ったもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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