113 梅干

 むかしむかし、あるお寺で、春先のながいのどかな日に、とってもポカポカて気持ええがったもんだから、ほこに、お寺さんつぁ、昔はおくさんて持たんねがった。んだもんだから、女中さんが一人いだった。ほの女中さんも年頃なもんだったから、身もてあまして、長い長芋つっこんでもてあそんでいた。
 ところが、和尚さんは和尚さんで、また尺八吹いっだげんども、どうも尺八の孔、気になって仕様ないもんだから、つうと()っちゃがったげんども、無理無理自分の入っで見た。ところがおえねぇこと始まった。尺八から、(なえ)ったて抜けねぐなってしまった。女中さんが女中さんで、ほの山芋、(なえ)ったて抜けねぐなった。不思議なこともあるもんだと思って、こりゃ困ったこと始まったもんだと思って、二人は別々に考えっだった。
 ほうしたら、ほれ、春先なもんだから、猫ぁ、さかり来て、ほっちゃドタン、こっちゃバタンていて、ほして、梅干のコガひっくりかえしてしまった。ガチャンたれば、ハッと思って、いきなり力入っだれば、女中さんは山芋抜けたし、和尚さん、ほの尺八から抜けだけど。梅干のコガひっくり返したので、梅ていうな、やっぱり、ひっくりかえっても〈難除け〉なもんだなぁて言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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