130 秋田の殿さま

 むかしむかし、参勤交代の折に秋田の殿さまと山形の殿さまが一緒になった。
 ところが何日も何日も旅続けたもんだから、お互いさま下帯も大分汚っで来た。
「いやまず、こりゃ。江戸さ行ったら、褌買わなくてはなんない」
 山形の殿さま言うたれば、秋田の殿さま、
「山形、何、フンドシとな」
「んでは、お前方では何と言うか」
「いやいや、わしの方では、これを〈屁通し〉て言う」
「屁通しとな」
「その通り、いいや、山形、糞(ふん)なの通そうと思ったら、とんでもなく頑張らなければ糞は通らないんだ。屁はスイスイと通すから、おら方では屁通しと言うんだ」
「なるほどな、屁通しか」
 そして秋田の殿さま、木綿屋に屁通し買いに行った。
「おい番頭、屁通し呉れ」
「いや、お客さま、御あいにくさまでございます」
 どこの店に行っても〈屁通し〉売る店一軒もない。
「ははぁ、山形の殿さま何とかて言うたな。あれでないと買えないのかなぁ」
 て言うわけで、
「おい、山形、何て言うて屁通しを買うのだ」
「屁通しなんて売っていねんだ。この江戸では、あれはフンドシ…」
「ああ、そうか」
 と言うわけで、矢立てをちょいと腰から取り出して、ちりがみに〈フンドシ〉と書いた。そしてペタンとそれを折って懐の中へ入っで、木綿屋の前に行って開けてみたれば、フンドまでは乾いてあったが、「シ」の方はまだ乾かねくてふたしたから、消えてしまった。何だか分らねぐなって、そそっかしいもんだから、
フンドウと読んだ。ほして木綿屋さ行って、
「おい番頭、フンドウ呉れ」
「フンドウだら、向いのハカリ屋さんでございます」
「ああ、そうか。江戸は違ったところなもんだ。フンドウはハカリ屋か」
 て言うわけで、ハカリ屋さ行って、
「おい、番頭、フンドウ呉れ」
「へえ、お客さん、何貫目のフンドウでございます」
「冗談言うな、おれは疝気(せんき)や脱腸であんまいし、何貫目なてあるもんでない」
「では、ちょっと棹(さお)を見せていただきます」
「棹を見せていただきますって、いちいち見ないと売んねぇのか」
「はい、そうでございます」
「んじゃ、番頭出すぞ」
「いや、それはフンドシですよ」
 て言うたて。どんぴんからりん、すっからりん。
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