128 宝生の玉

 むかしむかし、あるところに若者が居って、春山に稼ぎに行った。ほして絶壁のような、下が滝壷だった。ほこで木伐っていたれば、足滑べらかして、ドボンと滝壷さ入って行った。ほうしたれば不思議なことに、その滝壷の中はお城のようなすばらしい邸宅みたいなものあった。ほっから若い娘が出はって来て、
「御案内します。どうぞこちらへ」
 て言うわけで連(せ)で行がっだ。
「はぁ、すばらしい滝壷の中に、ええ邸あるもんだな」
 と思って行ってみたれば、ほこはメノウの雪下駄、シャコウの箸ていうことある、すばらしいお城みたいなどこだけど。そしてそこさ案内さっで、その女に聞いてみた。
「ここは何というどこだ」
 もの何も喋べねで、黙って案内して行った。ほして一つの部屋さ行ってみて、ほして驚いたことは、その襖さ画かっでいたのは、南の方角は南画の大家、北の方は北画の大家。南画は池の大雅、北の方は狩野元信の画、そして花瓶は南京渡り漢窯から出来た、支那の景徳鎮窯ていう窯から出来た焼物だそうだ。その女は無言で御馳走した。そして御馳走になって、三日間もお世話になったから、おいとまして帰んべと思って、ほうしたら初めてその女、口立ったって。
「あなた、非常に真面目に働く人だから、この玉お上げすっから、願いごと、この玉持ってお帰りなさい」
 て、この玉もらって、その滝壷からすうっとまた上がって来た。そして家さ帰ってみたれば、表まで来たれば、何だかお寺さまなどいて、ニャニャムニャ、ニャニャムニャている。
「おかしいこともあるもんだ。お寺さま死んだと思っていたんだな。三日も家さ来ねがら…」
 て、家さひょこっと行ったれば、家の人みなぶったまげた。
「なして、ほだい魂消ていんなだ」
 て言うたらば、
「お前死んでから、三年なんなだはぁ」
 ほして、
「三年忌、今しったどこだ」
「はぁ、三日だと思って、おれぁあそこの滝つぼの中で、絵画眺めたり、陶器眺めたりして来たげんども、なんだなぁ、ほの、楽しく暮すど、三年も三日間しかないように暮すいのだなぁ。んだげんども、おれ帰って来たし、三年忌は解消だ、みなさんどうも御苦労でした」
 ていうわけで、親類縁者に帰ってもらった。ほしてこんどは女を忘れがたくして、やっぱりその玉、倉の一番奥さ隠しったな、そっと行ってはそいつさ願いごとする。願いごとしたことはそくっ、そくっと次の日ありありした。
 ところが奥さんがなんだか常にせっせと倉さ隠っで行って、おかしげな音すっから、何かあるに相違ないていうわけで、行ってその倉の中、よっく探してみたれば、奥さんから見っど河原の石ころ、たった一つあるきりだ。
「なんだ、この石ころだったのか、つまらねもんだなぁ」
 ていうわけで、ポインと投げてやったはぁて。ほしたらばその玉、不思議な偉力発揮しねぐなってしまったったはぁ。女ざぁやっぱり邪道ていうもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
(「竜宮童子」系)
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