112 金平(きんぺい)神楽

 むかしむかしあったけずま。
 ある村に金平神楽というて、三味線・笛・太鼓・獅子頭・おかめ何でも一人してやるお神楽いだんだけど。
 ところがあるとき、ほのお神楽が原っぱさ行った―百姓でもいそがしくて何でもかんでもやらんなねとき、この辺では金平神楽みたいだという―。そうすっど、その原っぱに有名な狐がいて、みな人を化かして持ちものを盗ったり、あるいはええお湯だな、なて溜(どん)池(べけ)(肥溜)さ入っだり、馬糞(まんくそ)さるわせて、マンジュウだなて、さんざん悪さする狐いだった。そしたらそこさ金平神楽行ったら、三回ばかりひっくり返えったけぁ、きれいな女(おなご)なって出はって行った。ほして金平神楽の傍さ行った。金平神楽は、はいつ見っだから、
「おいおい、何だお前、ほらほら尻尾出はってだどら、ほだな化け方で分んない」
「はあ、気しゃわれごだ。ほだな分っかよ」
 その女言うた。
「分かっかよて、分かる、ほりゃ。お前お粉白付けっだような格好して、片方うすく、片方濃く付いっだどら」
 ええくらい言うた。
「耳なの、左と右ちがう。逆にふっついっだ」
 はいつ聞いて狐の方はほうほう慌てた。
「ほだごとして人を化かすいと思ったら、大きな間違いだ。どうだおれと化け較べしねか」
「ほうか、おれも原っぱ一の化け頭(かしら)と言わっだ狐だ。お前にほだなこと言(や)っで侮辱さっで下がられるもんでない。どうだ、ほだらは化けくらべすんべ」
 ほういうわけで化げくらべが始まった。ほうすっど「ええか、見てろ」。金平神楽、「おれ、先化けてみせっから」。フスマ袋からヒョットコ面かぶってひょいと顔見せる。
「ほほう、上手に化けだねぇ」
 ほうすっど、今度おかめの面ひょっとかぶって見せる。
「あらら、こんどおかめさまだ」
「どうだ」
 こんどは最後には鍾馗(しょうき)の面かぶってうわっと言うた。
「恐かないちゃ、恐かないちゃ、鍾馗大嫌いだ」
 こんどは獅子頭かぶって見せた。狐はぶったまげた。
「んでは、お前、何でほだい上手に化けんなだ」
「お前だみたい尻尾ほっちゃ曲げたり、こっちゃ曲げたりしていねんだ。おらだほだないらね。袋あればええんだ。袋の中に仕掛けあんのだ。嘘だと思ったら、その袋のぞいてみろ」
 て、狐そっと行ってのぞいている間に、その袋スポッとかぶせらっで押えらっでしまったはぁ。
「こらこら、この馬鹿もの、ええか、おれにお前押えらっでしまったんだぞはぁ、殺すも生かすも、おれ次第なんだぞ。おれなのは人間でも屑の方で、みんなのおかげさまで暮していんのだ。みんなひいきしてもらって、助けらっで暮しているお神楽だ。ほんでさえも本気になっどお前ぐらい、このぐらいいじめるいのだ。人間なんていうのは本当は賢こいんだぞ」
 んだげんども、金平神楽は考えた。原っぱ一の狐殺した後の祟りあったりすっどなんねぇ。何とか因果ふくめて、
「決して人間さ、あんまりからかうな、人間馬鹿にしたりして、有頂天になったりすっど、必ず生命さかかわっぞ」
 そういう風に言って、袋から出してやった。ほれがらざぁ、その原っぱさ化け狐ざぁ久しく出ねがった。どんぴんからりん、すっからりん。
(叺狐280)
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