111 白雀

 むかしむかし、非常な旦那衆がいて、何年と続いた旦那衆で、すばらしい身代だけど。ところがその旦那衆の当代になってから、何だか田のものも畑のものも大分ええようだけども穫んね。
「おかしいこともあるもんだ。今年は作ええのになぁ」
 と思っても、秋の穫入れになっど大したことない。だんだんじり貧になって行く。
「はて、不思議なこともあるもんだ」
 ところが、ほこの旦那、朝寝坊で八時頃しか起きらんね、夜はいつまでも起きでいっけんども、朝は起きらんね。して、ある人が教えた。
「お前の家では、大分百姓上手だ。昔からいろいろな物穫るんだげんども、収穫ないべ。なしてだか分っか」
「ほだ、はいつ分んねず、ほれ」
「んだら、おれ教える。ええか、白雀ていうな、朝げ飛んで来んのだ。これは日中絶対に飛ばね。人の居っどこで飛ばね。朝げ早く飛んではぁ、お天道さま上がる頃は、どさか行ってしまっていねなだはぁ。その白雀見っだいごんだらば、んだらば四時起き、秋でも五時起きすんなね。ほうすっど始めてほの白雀が飛ぶから」
 て教えた。旦那、ねむたい目こすって、次の朝げ起きてみてたまげた。若衆は若衆で、柿もいで売る、女中は女中で田から生稲引っこ抜いて来てはぁ、モミで売る。
「はぁ、なるほど朝寝してっど、こういう風な白雀ざぁ、そういうことであったか」
 て始めて分ったんだど。んだから、あんまり朝げざぁ遅くまで寝てらんねもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>鉢かつぎ姫 目次へ