94 化け石

 むかしとんとんあったずま。
 下生居に化け石というところあって、夜な夜な石が化けて出て、人から物を盗ったり、おかしなものを見せたり、化かしたり、さんざん悪(わ)れことすっかった。
 て、あるとき、中生居のあるどこの嫁さま、
「いいか、明日、正月だから、年取りの買物行って来い」
 て言わっで、
「おらえでは、家内多数(ふだ)だから、鱈の頭とキクワタ付いっだな買って来て呉ろなぁ」
 て、嫁だから行った。ところが少し遅っで行ったもんだから、町中の魚(いさば)屋(や)探してみたげんど頭とキクワタ入った鱈ないんだけどはぁ。んで何とも仕様ないし、頭のないキクワタのない鱈買って来たれば、ちょうど今の金沢橋どこまで来たらば、
「姉ちゃ、姉ちゃ、お前頭とキクワタいらねなだか。お前背負ってたな、頭とキクワタないようだからよ。おれ、頭とキクワタいらねんだず。取換えて呉ねが、おれ銭打(ぶ)つから」
 て言うわけで、ほのおかちゃが言うた。
「いや、銭打つからなて、おら方で打(ぶ)だんなねっだな。キクワタと頭ないのだも」
「んだか、んではどっちも一文も打だねで、んだら取換えすんべはぁ」
 て、金沢あたりのおかちゃんとそこで取換(しかえ)だんだど。ほして取換(しかえ)たときは本当のものらしがったんだな。ほしてはいつ背負って来たれば、ちょうどほの化け石のところまで来たれば、さっきのおかちゃんが汗出して、追かけて来て、
「おお、ちょっと待ってで呉らっしゃい、はぁ、あねちゃん、ちょっと待ってで呉らっしゃい」
 何だと思ったれば、
「いや、家さ行ったれば、おら、おっつぁんにごしゃがっで、頭のない鱈なの、これまで買ったことない。ほだな話ざぁないて、ごしゃがっだもんだから、さっきだ、おれやったのど取換えで呉ねがはぁ」
 て言わっだんだど。
「んでは仕方ないっだな、おれお願いしたんだから仕方ないっだな」
 ていうわけで、ほこでまた交換したんだど。ほして頭のない鱈背負って家さ来て、「ただいま」て来て、ドサーッと置いだんだど。したればおっつぁんが、
「こらこら、なんだお前、こだなもの背負ってきて」
「なして鱈だべず」
「鱈、鱈ざぁどういうもんだ。鶏森のかしらの化け石んどこの地蔵さま背負って来たどれ、頭のないな」
 見たれば頭のない地蔵さまば背負って来たんだけど。ほして鱈と地蔵さま取換(しかえ)らっだのよはぁ。
「あらあら、地蔵さま、ほんでは背負って置いて来んなねっだなはぁ」
 て、次の日背負うべと思ったら、重くて背負われるもんでないんだどはぁ。男衆も背負わんねぐらい重だいんだけど。そいつ軽々と背負って中生居まで、ぐんぐん来たんだど。ほして結局化け石の狐に化かにさっだんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
(髪剃狐272)
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