6 からすぼたもち

 むかしあったけど。
 村に、じさまと一人むすこが、貧乏だが気はよく暮していたっけど。じさまはむすこがめんごくてめんごくて、
「おらも、このむすこがたよりだ、よいところに縁付けてやりたいもんだ」
 と、朝もあけないうちから、村の鎮守さまにお詣りをかかさなかったもんだ。
 そんなある日、じさまが町さ用達しに行ったら、村はずれの地蔵さまの前に、子どもらがむれていた。みたら、毛も生(お)えないからすの赤子(あかこ)を巣がらみとって、
「七匹いるから、どう分けたらよかんべな」
 と、いじりまわしていたと。
「こりゃこりゃ、赤子がかわいそうだ。おらが銭コやるから、そのからすの赤子を売ってくれないか」
「いいよ、また山に行けば、とれるからな」
 じさまは用達しもわすれて、巣に入った赤子を家にもってかえり、ほら食べろ、ほらこれを飲めと、そだつのを待っていたもんだ。ようやく飛べるようになった十五夜の晩に、じさまはそっとふところに入れて、
「よいか、もう村にはくるなよ、また子どもらにいたずらされっからな」
 と、裏山の杉の根かたにおいてきたと。
 それから何年かたった。村一ばんの旦那さまのむすめも年ごろになって、むこをとることになった。
 田は千刈、畑も千刈、山という山はみな旦那さまの持ちものだった。
「田と畑のひろさはわかってるが、山の木の数だけは、あんまりいっぱいで、まだ数えたこともないが、おらも年だ、むすめにゆずりたいが、この山の木を数えられるほどのむこをもらいてぇもんだ」
 そんで、村中さおふれを出したもんだと。
 さぁ、じさまは考えた。
「あの旦那のむすめだれば、おらのむすこのよめにちょうどよい。といったとこで、あの山の木ば数える手もないし、同じ高さの木では目移りして、かぞえたてらんね」
 そんでも、じさまはあきらめ切れねもんだから、山さ出かけて行った。
「南の山は杉林、こっち向いは松林、うら山のほうは栗林…」
 とながめたもんだが、何ともなるもんでねぇので、がっくりして帰り道に腰おろして、ほほ杖ついて、一人ごと語った。
「旦那のむすめに似合いのむこなんか、おらのむすこのほかに誰があっか。おらのむすこのほかに、誰もあんまい」
 そういっても、
「この山の木の数では、何ともなんねぇ」
 と、ますます、沈んでしまったと。そしたら、頭の上から、声がふってきた。
「じんつぁ、じんつぁ、いったいどうした。なんでこんな山の中にござったんだ」
 じさま、頭をあげてみたら、いつかのからすだったんだど。
「いやいや、あの旦那のむすめのむこに、おらのむすこをやるべと思ったに、旦那の山の木かぞえねぇと、むこにはならんねというもんで、みにきたがどうにもなるもんでねぇ」
 そしたれば、からすは、
「いや、おらの子どもが殺されっどこ助けてもらったじんつぁだもの、七匹もいるむすこが手分けして行ったら、わかるべ。じんつぁ、ここで火たいて待っててくろ」
 といって、うら山の方さとんで行った。
「あんなこというけど、からすにゃ木の数はかぞえられねぇべ」
 じさまは、どうにもなんねと思ったが、火たいて待っていたと。
 からすは家にかえり、七匹の子どもにいいつけた。
「なぁ、お前らを助けてくれたじんつぁの頼みだ、さぁ手分けしてかぞえろ、杉林は、松林は…」
 からすどもは、そっちゃとび、こっちゃとび、そっちゃこっちゃとび、たちまちのうちに、あのひろい旦那の山の木の数をかぞえてしまった。
「あっちの山の杉の木は、七万七千七百七十七本だ」
「そら、こっちの松林は、どうだった」
「松の木は五万五千五百五十五本だ」
「そうか、おらが数えた栗の木は、ちょうど三万三千三百三十三本だから、そんじゃみんなで、ああ、こりゃたいしたもんだ。十六万と六千六百六十五本だな、さっそくじんつぁに知らせるべぇ」
 と、親がらすが、山で待ちくたびれたじさまのとこにとんだ。
「よいか、杉の木は七万七千七百七十七本じゃ。松の木は五万五千五百五十五本だ。それに裏山の栗の木は三万三千三百三十三本だから、あわせて、なんと十六万と六千六百六十五本だぞ」
 それから、からすは、自分の黒い毛を抜いて、
「ほら、七本、これは杉林だぞ」
 そして、胸毛を五本抜いて、
「これは松林のもんだ」
 また、頭の毛を三本抜いて、
「栗林はこれだぞ。これをむすこに持たせて、旦那の家にむすめをもらいに行ってござれ」
 じさま、泣かんばかりに喜こんで、家にとび帰ってむすこをよび、
「さぁさ、早く行ってこぉ」
 と、腰のおびにその毛をはさんで、旦那の家に行かせたと。
「うん、よくお前は数えたもんだ、一本ぐらいは数えちがいするべと思ったが、よし、おらの家のむこがこれできまった。めでたいこと、めでたいこと」
 なんて、ほめらっだ。
 むかさりは村中総出で、にぎやかに、いく晩もいく晩も、万灯(まんど)のように明るくして続いたそうな。
 じさまはたいへん喜んで、
「これもみんな、からすの手助けだ、ありがたいもんだ。からすだって、受けた恩は忘れたりしないで、こうしてくれた。おらも恩返しに、からすにぼたもちでも搗いて食(く)わせるべぇか」
 と、とんことんこ、ぼたもち搗いて、
「大きく切っては食(か)れんめぇなぁ、ちっちゃく握ってやるからな」
 と、ぼたもちをちっちゃく握って、屋根のうえさ供えたもんだ。
    からす からす
    小豆まんま 食(く)たがらば
    御器(ごき)と箸 もってこい
     ほーい ほーい
 いつのまにか、このことが村中のしきたりになってしまって、毎年、からすに恩返しだといって、このからすぼたもちを供えるようになったんだど。
 今でも二月八日の「ことはじめ」と、十二月八日の「ことおさめ」の日には、からすぼたもちを搗いて、畑さもっていって、からすに食(か)せるようになったど。
 とーびんさんすけ猿まなぐ、猿のまなぐに毛が生えて、けんけん毛抜きで抜いたれば、まんまん真赤な血ができて、めんめん盲目(めっこ)になったとさ。
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