4 聟の値い

 昔あったけど。或時、部落会(よりぎ) の後で茶呑話なたれば、聟話で一花咲いだけど。
 聟じゅ者は難儀する割にゃ、横座(旦那の坐る場)さ構えられる様になんなが 遅くて割の合わなえじゅ話がらな。希(あわえ) にゃ一生を「臍(へそ)」で過す者もあるてだど。
「臍」じゅあ、おながの中しごろさあて、初めのうぢはとでも大切なもんだども、 後でや無えたても良えよなものにされる。聟も初めは大事にされっども、後になっ と粗末に扱がわって生涯横座さなの坐らせらんねで終る者さえある。そう言うな ば「臍」て言うなだつけど。
 んだがて思えば、こんだ「馬飼う前の牛 (べご)」だ。これまだな、どう言うごどがと 言うど、後継童小(ち) ちゃこいなで稼ぎ手欲しくて、姉娘さ聟とて家さ置ぐ約束だっ た。ほれでも、男童子おがっ(...)とどうしても親達の気も変て来る。腹痛めた子の方 がめんごく(....)て、ほさかがりだくなるもんだべな。そうすりゃ、娘聟達の後継のご どは破談なて、こっちが分家出してもらうごとになる。してみっど、聟は長男が おがるまでの働き手だったわけで、値の高い馬を飼う前に安上がりに牛飼て済せ る例(たと) えだどこだ。聟とすればどっちしたって割合わなえ話で、とにかく米籾三合 持ってんなら聟になど行ぐもんでないちゅごとなんながな。
 米籾三合価しかないと言えば一方ではまた異論も出る。それて言うなはだな、 米糠三合あれば、それがとれる玄米だってかなりあったさげだろ。ほれあったら ば、苦労の多(うが)い聟えなんど行くごどあんめえてだど。そしたら隣さ坐た上の家の兄 (あん) さが言うにゃだぜ、米籾三合て言うなはな、実は、「こぬかり三度したら聟の資格 なし」、物事は失敗三度繰返すよでは聟はつとまら無えてだど。その言葉誤て「こ ぬか」になたなだどて言うなだど。厳しいんねが。自分 (わあ) 聟に来た人だもんださげ 肩持つどこだべ。ほしたら今度(こんだ) 下の家の兄さだけど。この人も聟に来た人だ。な じ言たど思う。
 どうが聟に来て呉んなえか。来なえばこっちから押しかげっさげて頼まった。
「来っか、こぬか(...)、来ぬならこちらで参上」が「米籾三升」になてそれが何時の間 (こめえ)にか桝減りして三合になったっけど。
「来るか来なえが、来なえど、こっちから参上仕る」て言うなが。良え事言うも んだ。いづれにしても聟じゅあ辛(こわ)えもんだべや。
「夏藁八束打つより聟あ辛(こわ)え」どかて言うさげな。「聟は明日の仕事ば今日のうち 聞いでおいで、朝間にや蓆の目の見えないうち起床 (おぎで)働ぐもんだ」て言たもんだ。 お前達どうだ。ほげた勤め出来っかな。
 刀剣さ例えで言(ゆ)えば、聟に行て一年目は剣の峯を、二年目には腹を、三年目に は刃を渡る覚悟が要るて言うんださげ、良ぐ勤め遂げだら「聟取三代続くど長者 になる」て言う事になんのがなや。
 この家の末子(おじこ) が囲炉裏の隅(すま)こさ、猫こみでえにしがみついて今までの話聞いっ たけっけ、あてつけみでえに聞けて黙っていれなくなて話さ参加(つっぱま) て来たけど。日頃(いっつも)聟へ行ぐのを勧めらってっさげて、頭に来たろ。ほさ(..)「末子 (おじこ)どうだや」ともちゃげる(......)人も居んなで、末子ぐっと息のんで言うけど。
「俺だら、観音さまのご縁日に休暇(やすみ) くれる家なら、どげだ所 (どさ) だて聟行てやる」て、 言うどこだけど。
 観音さまだっていろいろあんべちゃ。ほのご縁日に皆みな休み貰らたらば、何日(えっか) 働ぐどごあるやは。ほれ聞いで皆は、末子は良え工面だしたどて、ホーホて囃し たけじゅごんだ。 どんぺからんこ なえけど。
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