3 聟泣がせ

 昔あったけど。或所さ、聟いびりば(か)りしてる意地の悪い婆さま居だけど。自分(わあ) の腹ばいだめだ娘の大事な聟だて云う()に、聟のしたごどて言うど、何(なえ) でも彼(かえ)でも気にくわねくては。何時も難題ばふっかげて、つっかがんなで、嫁(あね) こもただひしゃまし(.....)て(あきれて)見でっけど。
 或時(あっづき)、こうゆう事もあたど。聟あ山さ稼ぎ行て、「あえこ」(ミヤマイラクサ)沢山(えっぱ)出ったな見つけでな。「これぁ婆さまの好物だ。何時か他家(よそ) でご馳走なて、大変美味(んめえ)がったどて喜で語っことあっけさげ、これ採て行たらなんぼが機嫌好えがしん ねぇ」て、沢山(しこだま) 採て背負(しよ) て来たどこだど。
 婆さまほれ見て、聟まだ土間(にわ)さ編篭(はけご) 下すど直ぐさま、中から引張り出すつもりで手ばつっこんだべちゃ。生鮮(いぎ) の良え山菜(あおもの)ださげ茎さイライラじゅ棘でば沢山生えでるじゅんだ。それ刺して「痛えちゃ」て叫がんで、編篭ば足蹴して厩の中さ踏(ふ)んざらてやたけど。
「けぢげだ物(こんな物)採て来いて誰ぁ言た。人を呪(のろ) うどごだが」どて、こもじゅもなえ(.......)(理不尽な)難くせつけで、側(はた)の者まで困らせだけど。
 せっかくなや、聟あ婆さまどこ喜ばへんべど思(も)て難儀して採て来たもの、当外(あてはず) ってがっかりだったべ。口惜くて堪らなぐなては、悔し涙もこぼって来てあったろ。 ほれがらじゅもの、このあえこ(...)ば「聟泣がせ」て呼ぶようになたなだど。まだ余(あんま) り美味(んまえ)くて「こげた美味物は聟なんどにゃ勿体なくて食へらんなえ」て、聟にゃ わだらねがったなで、泣いだなだて言う人もあっどもな。
 それゃそれどしても、婆さままだこんげに聟(あに)さ当るなじゅあ、なえしてだべ。嫁 (あね)こと聟(あに) どして頭ひねてみだどこだど。そこで感(がん)づいだのは「酒」でねぇべがじゅ ごとなてな。本当は婆さまのごが(..)する(無茶をいう)のも酒ば呑みだぐなてくっ さげんねがや。女だって(...)(だてらに)して、何ぼ何でも自分(わあ)がら呑みだえじゅは気辱(こっぱずか)しいこった。ほれに聟どこ煙ていさげて、聟の方がら機嫌とて貰いだくて、 いぢめさかがんなだろてな。ほう言うごとで、今度から嫁こもこじらねぇ(.....)振りして後(うっしょ) さ廻わて聟さ告口すっことしたど。
 それて言うな、「婆さま呑みだくなたな」と、嫁こ悟(さど)たら、おぼこだます(あや す)振りして、子守唄ば歌て、聟どさ教(お)へっごとしたど。
   かっころ兵衛の嬶さま お酒大好きで
   降っても照っても 何時だても
   朝から晩まで 呑み続け ねろねろやーど
 聟の方もそれを心得て、唄がきこえてくっと、夜上りしめぇにゃ、「ほっか、ほっ か、よしよし」てうなづいで、嫁こぁ背戸の泉水(へんす) のあだりさ隠しておいでくった 濁酒ば持 (たがえ) て上てくっかったど。
 これで婆さまの腹の虫も納まり、ごが(..)もすらなぐなたし、家ン中も大変まるぐ 納またけど。  どんぺからんこ なえけど。
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