8 へんとこ話

 昔あったけど。或(あ)ッ所(どこ)で爺と婆二人暮しの家あたけど。
 爺ぁ朝間起ぎで土間(にわ)掃いでだら、豆粒落ぢったな見つけて拾たけど。ほの半分 ば種にすっことしてとておぎ、残りば何が美味(んめえ)ごどしんべどなたど。二人相談し て、豆の粉こさえだらていうなで、そげするごとしたべや。
 炒(い)り鍋さ豆ば入っで、爺あ薪さつくべッと、豆ぁパリンパリンてはぢける。ほ ごを婆ぁまだカランコロン、カランコロンと掻して炒る。黒ぐ焼ッこがすど苦ぐ なっさげて、上手に炒れだどこで、石臼でゴロゴロゴロンと挽いだけど。
 そればこんど漉すばんなたど。ところが、爺達コロシ持だなえじょん。さァ困っ たは。これはどからが借りで来なえばなんなえ。
「お前、隣の家さ一走り行て来いちゃ。俺は他の仕事さかがらなえで待ぢでっさ げて、さっさど行て来いよ」て、婆さまどこ急がへで使てやたけど。
「爺さ、何て言たけ、ああそうが、コロシだけな」
 自分家(わあえ)にはないもんだし、普段余り言いづけなえなで、コロシば忘れそうなっ けど。忘んねよにど、行く道々、心の中で「コロシ、コロシ、コロシ」と唱え続 けで行たど。
 これなら大丈夫ど思(も)てっど、堰ぁたじょん。それは跳ね越すどて、力んだはず みで、独りで「ヘントコ」て掛声出たけど。ほしたらそっから、コロシ消えでヘ ントコに変てしまたふうだでや。この方がずっと調子良くて言い易がったんだな。 隣さ行き着いで戸を開げるなり、「ハエットー、ヘントコ貸してくっちゃ」て言て 入て行たけど。
 隣家(となり)の爺さま、それきいで動転しては、「なえちゅごったろ、ヘントコ借して呉 ろなて、一体そのヘントコて何すんなだや」て聞くけど。ほしたば、豆の粉漉す なだて言うけど。
「ほれならコロシでなえが、俺家にはあたにはあたども、合憎ど ぼこって....使わんなくなたおな」て言うけど。婆さまほれでも良えさげどて、がってしそうなえけど。
 あんまりしつこえなで、「豆の粉漉すなら、もっこふんどし(越中褌)良えもん だ」て、揶揃たけど。ほうしっと婆さま、ほれ本気して家さ帰て来んなり、「コロ シなえさげ、越中褌で漉すどええて言わって来た」て、爺さまさ語てきかへだけ ど。
 爺さまも、「んだ勘定だ、きっと按配良えがしんなえな」て言うなで、自分の褌 はずして、片方(かたえっぽ)ば婆さまさたががへ、もう片方ば自分たがて、其処(そ) さ石臼で挽いだ粉ばのせで、パッパッパッと漉したけど。
 誰も見でなぇべど思てたどごが、近所の童たち、爺ど婆で面白(おもへ)ごとしったどて、 寄て来たじょん。爺さまがそさ気づいで体ば よじっと....、堪えった屁ば我慢出来な えで一発ブーともらしてしまたけど。そのあほりで切角の豆粉、まわりさ飛んで しまたけべ。
   爺ぁ屁の実ぁ んめえんめえ
   婆(ば)ン婆(ば)屁の実ぁ んめぐなえ
 そごらさまぶった豆の粉ば、童たちやらて...(競て)きれいになめんなだけど。
 どんぺからんこ なえけど。

>>安楽城の伝承(二) 目次へ