3 笠地ン蔵

 昔あったけど。或所(あっどこ)で、爺さまと婆さま二人ばりで、貧乏(しかだなえ) 暮しったけどな。
 年寄の手じゃ、ろくな百姓どて出来なえもんださげて、他所がら藁もらて来て 蓆織たり草鞋作たりして、ほれ売って米、味噌買て過しったけど。
 或時、婆さま、
「爺さ爺さ、正月ぁ来たもんだもの、町さ行て鯖でも買てきたら良(え)んなえが」て 言うじょんな。ほれで爺まだ冬うぢ、かがて織った蓆ば背負って町さ行たけど。
 野越え、山越え、ずっと行ったれば、道端さ六地ン蔵さま立った所(ど)さ出はたけ ど。地ン蔵さまでば雪囲(そがき)もさんなえで、すっぽり雪冠て寒そうにしったけどは。 雪の溜た所(どこ)ば手で掻き浚って呉っだども、肌の方はよぐよぐ凍てしまて、地ン蔵 さまの氷(しが)みでえなったけど。
 爺さままだ蓆を売った銭で正月肴を買う勘定して来たったどもな、止めでは、 笠ば六つ買たどごだど。肴なの無えば無えたて我慢も出来る。吹雪(ふき)っさらしの地 ン蔵さまが いどしい....どこだどて、帰路(かえり)にその笠ば被へで、家さば空身で帰て来たどこだど。ほして、
「婆々や、地ン蔵さま、あんまり寒そで むづさえ....けさげ、笠ば六つ買て被せで来 たは。肴買う銭こ足んなえさげ、何も買いかねで来たぜは」て言て、家さ入て来たけど。
 ほれでも婆さま何て言うがど思たば、
「ほれぁ良えごどした。地ン蔵さまなんぼが喜んだんだが」て、機嫌良ぐ迎えだ けど。ほしてや、「爺さ、爺さ、難儀して来たもんだもの、早ぐ飯にして、よっく 温まて寝んべはな」て、大してご馳走てない、雑炊すすて床さ入たどごだど。ほ したら夜中時分に、
   甚兵衛 甚兵衛 戸を開げろ
   地ン蔵ぁお金ひいで来た ヨーイサノー
 じゅ掛声聞けで来たじょん。先ず婆さま眼さまして、
「爺さ、爺さ、甚兵衛甚兵衛、戸を開げろて言うんなえが、一寸起ぎで見ろ」て、 寝床の上さ半分身起して聞耳立でったど。ほしたら、まだ、
   甚兵衛 甚兵衛 戸を開げろ
   地ン蔵ぁ宝ひいで来た ヨーイサノー
 て言うけど。今時分に何起ぎだどごだべ。大変(おっかなえ)賑やがな音するもんだど思て、爺さま立て行てみたど。ほしたら戸を叩ぐなは先触れで、後の方がら威勢良ぐ車 挽いで来るみでえだけど。
   こーれほどの大持(だいもぢ)は
   江戸にも唐にも ごんざるまえ
  ヨーイサノー
 間もなく宝物ば山と積んだ車を挽いて戸の口さ着いだ人達をよっく見るじゅど、 昼間爺さまが笠呉って来た六地ン蔵さま達(だ)けど。
 積んできた重たえ荷物ばみんな家ン中さ運び上げた後、こんど一人の地ン蔵さま まだ土間(にわ)の真ン中さ蓆敷いで、ほさ坐て鼻の穴がらポロポロと米粒ばこぼし始め たけど。それが土間さ一杯なたでば、地ン蔵さま達も夜の明げないうぢにどて、
「爺さ、これ遠慮なし使て呉ろよ」ど、言いおいで、 んだら...(さようなら)して 行たけど。
   こーれほどの大持ァ 江戸にも唐にもござるまえ ヨイサノー
 家がら出はてがらも、空車挽いて歌て行んけど。これで爺さまと婆さま、良え 正月出けだばりが大金持なて裕福に暮したけど。 どんぺからんこ なえけど。

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