2 嘘五郎の正月仕度

 昔あったけど。或所の部落(むら)でな、金持ちがぞっくり揃た中さ、貧乏暮しの家が たった一軒挟また所(どこ)あたけど。
 其処まだ婆さまど息子の二人暮しで、息子でば嘘五郎て名前付いで、この野郎 ぢゅ者あ、大変なへやみで、ほの上道楽者だったふうだ。
 歳末(つめ)近づいて、もう正月来たていう時だど。婆さま精出して織た蓆を売て、正 月肴仕度しんべど思たべちゃな。嘘五郎どこ呼ばて、
「俺ぁ年寄(としよ)て町さなの肴買い行げなえさげて、お前行て来いちゃ。この蓆売れば かなりの事できんべさげ」て、言たけど。
 嘘五郎ごとしては、町さ行げるもんださげ、「おい、おい」どて、二つ返事で婆 さまの丹精して織た蓆ば背負て出がけたどこだど。
 婆さまのごとしても、思た通り良ぐ織れだ蓆で、これなら良え値段で売れんべ。 大した仕度でないにしても正月のまねごとぐらい出来ろちゃや。金持衆にゃかな わなえにしても、たった二人切りだじゅごんで、嘘五郎なんたもの買って来んだ がど、楽しみして待ぢったけど。そごさ嘘五郎ぁ風呂敷包みば首さ結なえで帰て 来たど。婆さまでば、嘘五郎ぁ どんぎ...(上り台)さ腰下して旅仕度解くなも気前焦 (きんめやげ)で、「蓆あねっづぐ織たなださげ、少しや値も良えけべな。何買えだや、肴だて正月中(うち)沢山だくらえ買えだべ」て、 せづぐ...どこだけど。嘘五郎どから荷物取ろうとしたれば、
「何しる婆々、こさあ触ては駄目だ」どて、渡さなえけど。
「んだたて、ほのまましておけば、魚だらば うでん...(生が下がる)べさげてな。 まだ猫にでもさらわんなえども限らなえし」て、婆さま気もむどこだけど。
「婆々や、ほげたもんでなえ、何日(えっか)おいだて大丈夫なもんだ」ていうじょん。そ うすれや乾鱏ぐらえなもの、一体どうなってんべ。可笑しげたごと言うもんだど 思たけど。
 ほのうち、嘘五郎ぁ包みば解ぐな見だらば、なんと中がら出て来たなは、玩具 の豆太鼓と、何だか色粉みでえなものだけど。鮮魚(なまざかな)など一片も姿見せなえ。何も童子であるめえし、豆太鼓など買てなじょする気だもんだが、婆さまも呆れ果て るばりだけど。
 せっかく丹精こめで織った蓆で、 へぢけた....(そんな)物買って来るなんてと、 叱ってみでも嘘五郎ごとしては不貞腐ったように囲炉裏端で腹あぶりして動がな えじょんは。とうど、年越も来てしまた。婆さまも大当外れで、年肴の無え淋し い正月ば迎えんながど思うど、情なぐなてくっけど。でも自分生(わあな)した子供(おぼこ)だもんださげ、諦めるより仕方ながったべ。
 ほの内、嘘五郎まだ何処(どさ)行ぐどこだが、立って行たけど。屋外(おにや) さ出て雪原(ほてこやら)ばポカポカとこいで、金持の家の屋根さすたこら上て行んけつけや。ほして天辺で小太鼓ただいで大声張り上げったけど。
   上の長者も繁昌せ 下の長者も繁昌せ
   中ぁ太ぐ エンザブロ エンザブロ
 何(なえ)したてかしましいもんだどて、その家の旦那まだ外さ出はて見だれば、囃し 立でんな嘘五郎だじょん。なんぼ五月蠅えがらと言ても、繁昌しろどて囃すもの を止めろて怒鳴るなも縁起んなえ。今々、歳神さま迎えるていうなさけち..ついで もど思うど、ほどほど困てしまたけど。
 これぁ嘘五郎どこ、うまく騙して機嫌よく屋根がら下(おろ)すに限る。そう思たなで、 「嘘五郎、嘘五郎、一寸此処さ来てみろ。正月小遣百文呉れっさげて下りで来い ちゃ」て、旦那まだやさしく誘たふうだちゃや。でも下りで来る気配は無いじょ ん。そごで百文が百五十文、二百文とだんだん競上て、三百文なたれば、やっと 太鼓の音止またけど。
 嘘五郎は三百文もらて、よっくど礼言うけつけや、ほの足でこんどは下の長者 の屋根さ上ったけど。まだ太鼓始めだじょん。
   下の長者も繁昌せ 上の長者も繁昌せ
   中ぁ太ぐ エンザブロ エンザブロ
 とうど、こっからも三百文もらて、都合六百文稼いだ訳だべな。大意気なて家 さ帰て来て、婆さまどご喜ごばへたけど。
 こんだ嘘五郎も早々ど床さ入っけさげて、婆さまごとしては、明朝(あっさま) 早ぐ起ぎで町さ肴買いに出直すどこだんだなて思ってだど。ほしたら何処の家も寝静また頃、 起ぎ出はて来て、町がら買て来た色粉ば溶がし始めたけど。それば茶碗こさ入っ で、長んげえ芦一本用意したなど持(たが)て家がら出はて行んけど。
 何しっかど思たら、まだ長者達の家さ参(ま)て歩いで、外がら雪囲(そがき)はだげて、半戸前(はんどめえ)さ置いった正月餅めがけで色粉水吹いで歩ぐなだけど。後なて、長者の家で雑煮餅祝うべど思たれば、餅あかびってっじょん。それ色粉だと知らなえで、
「何だべ、こんげ早くかび来るなんて、珍し年もあたもんだ」て、うんと可笑し がっけど。ほれさ、餅に青かび生えっど、上作の兆だて言たもんだども、こう赤 かび生えだんでは早いどこ始末しないどな。でも捨(なげ)るて勿体ない。嘘五郎どこで 餅も搗けないでいんべさげて呉れでやっとええ、どて下女こ使って届げて呉ったけど。
 こうして、上下の長者からえっぺ餅もらて、嘘五郎も近頃無(このじゅなえ)(近来稀な)良え正月を迎えたけど。
「蓆売って正月肴買って来いてば、童子の玩具(もちやすび)買て来た馬鹿者」どてごしゃえだ婆さまも、嘘五郎の工面にゃ頭下げだった風だ。 どんぺからんこ なえけど。

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