8 ねずみといたち

 昔あったけど。働き者のいたちぁ畑耕して粟蒔いたけど。朝早ぐ起ぎて水かけたり、肥料( こやし)やったり、草除ったり、面倒見が良がったせいか、とっても稔り良ぐて上作だけど。
 いよいよ、それば刈りとって河原さ乾しておいだじょん。そごさねずみぁ通りがかて、
「ええあんべえだな。粟じゅものは刈って一晩夜露さ晒すど、 さがし...易くなるもんだ」て、世話したけど。
 いたちぁ、ほんとき(本気)できき入れ、河原さほの粟ば拡げておいたどこだど。でも、なえだか気になって、何時もより朝間早ぐ起ぎて行て見たべ。ほしたら乾しった粟一束も其処さ無えけどは。
 いたちごとしては動転したべし、それよりも人が折角丹精した物ば盗まって、ごしゃげでごしゃげで、なんじがなるよだけど。
 一体これは誰の仕業だべ。一粒も残さなえで盗で行くじゅもの、憎いちゃ憎いちゃ、後で判たら只でおがんなえど思てるどさ、烏が飛んできたなで、直ぐきいでみだけど。
   いたちぁ粟蒔いだ ギッチギチ
   刈っ取り盗らなえが ギッチギチ
 ほしたば、「おりゃ、ほんなもの知るもんか、カアカア カアカア」て鳴いで飛んで行んけど。
 ほの次ぁ雀こ達(だ)寄て来たなさきいでみだべ。
   いたちぁ粟蒔いだ ギッチギチ
   刈っ取り盗らなえが ギッチギチ
 雀達も、「おりゃ、ほんなもの知るもんか、ピイピイピイ」て囀づて、これまた相談さものてくんなえけど。其処さ今度ぁねずみ通りがかたけど。ねずみなら昨日はあんげに親切に教へでくっだんだ。なじが良え知恵もあるめえが、
   いたちぁ粟蒔いだ ギッチギチ
   刈っ取り盗らなえが ギッチギチ
て聞いだど。やっぱり、「おりゃ、ほんなもの知るもんでなえ、チューチューチュー」て、足もよどめなえで、さっさと通り過ごしてしまたけど。
 なえでも可笑しいぞ。逃げ足つくって家の方さ行った。これぁ臭いぞて言うなで、いたちぁこっそり後つけてみだ。気づがんなえように、ねずみぁ家さ入た後で、節穴(きっぷしあな)がら中ばのぞこんでみだけど。
 いたちにのぞかってるともさどらなえで、大勢の童たちまだ母親の顔見で大声出して、「母(かが)さ、母さ、夕(ゆべ)な食た粟餅、 まと..食だえ」て、 はだる...(催促)なだけど。これ聞いで、粟盗棒はてっきりねずみの仕業じゅごと判たべちゃ。いたちごとし ては大ごしゃぎしてどなり込んで、ねずみばいじめで仇とりしたど。
 ほん時、ねずみまだ毛むしらったなで、ほれで今でも毛が短いし、ほれさいた ちの姿見つけっと、さっさど姿くらます性分なたなだど。 どんぺからんこ な えけど。

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