6 みそさざいと鷹

 昔あったけど。何日(えっか)も何日も空荒れだせいが、或所(あっどこ)の一羽の老(としよ)た鷹、まだ獲物なくて、腹空かして餓死(ひし)ぬ思いしったけど。よぐよぐ衰弱(がお)たとめえで、眼の前さ何よりの獲物が姿見せでもそれ追(ぼ)かげる元気さえなぐなたけど。
 チャッチャギ(みそさざい)まだ、ほれで可哀想(むぞさく)なたどこだんだな。近所(そば)で熊の獅子が寝ったな見つけで来て、ほれ掴(しめ)ろどて親切に教(おへ)でくったけど。ほしたれば、鷹まだ、
こげた...(こんな)態(ざま)して居ちゃ、何が居だたて立ち向てなど行げるもんでなえ。ましてや熊の獅子なの自分の元気な時だってなじして適うもんか」
 その惨めたらしい姿をみて、チャッチャギがからかうのかもしんね。そう僻(ひが)んでるふうだけど。
「何なえ、先ず向うの山の竹やぶさ行(や)んでみんべ。熊の獅子がええで(恰も)死 んだものみでえして寝ったさげて、ほれば退治っとて何だどこや。俺にだて出来るこった」て、チャッチャギ言うけど。ほしたら鷹ごしゃえで、
「何ぼ何だて俺の何分の一、何十分の一しかなえ、めちゃこい態(ざんま)して、ほげた大 それた事なじょして出来んば。ほれ退治出来だら何でも欲しいもの呉っでやる。 俺のこのきれいな羽根 とっかえ....でもええ」て云たけど。鷹としては、ごしゃっぱ らやげ(腹立ち)まぎれにとんだ約束したじょんは。
 チャッチャギまだ「ほんでや歩(あ)べ、勝負はほれがらだ」どて、熊狩の先立ちして行たど。山さ着くど「さァ見でらっさえよ」どて、チャッチャギはチョンチョンと さやずり....ながら、あっちの笠の枝、こっちの木枝ど身軽にわたったつけや。そのうち寝込んでた熊の鼻の穴からさっと腹ン中さもぐて、暫ぐ姿も見せなえど思たら、 そんま...まだ鼻穴がら「上首尾だ」どて、大威気なて出はて来たどこだど。 逸早(いっちはや)く熊の心臓ば嘴で突き破って出はて来たなだど。ほして、「そんま熊の獅子まだ伸びっさげて、ほしたら、たんとあがらっせよ」て勧めっつけ。
 これで鷹もチャッチャキに助けらって、何日振りかで餌さありづき、命拾たていうもんだ。約束どおり、お礼には自分(わあ)の大事な羽根むして分げでやたけど。んださげてな、チャッチャギまだ、あげためちゃこい態(ざんま)してでも、羽根むしてみっと一升桝さ山盛量られつし、よっく見っど羽根の模様も鷹とそっくり同じだて言うなも、そういう訳だなだど。
 こういう事あて後大分経ったんだな。鷹まだこん度(だ)ぁ独りで、熊の獅子親子が並んで寝転んでんな見つけだど。何時かあのチャッチャギでさえ熊の獅子の大物(だえもの)しとめだけさげ、元気な時の俺に出来なえてごとあるめぇてだど。しかも一度に親子二頭とも掴んべど思て襲(むが)たどこだど。
 さぁ、爪の先ばいがらして熊の背中さじゃっきり突き刺したべ。とごろがどう だ。熊の獅子達 どてかっぺ.....(動転)して、起ぎっか起ぎなえが、親仔てんでこ(別々に)な方ちゃ向て突っ走たけど。ほれごそ鷹の力まだチャッチャギの何倍何十倍 あんべたて、まどもに向えは熊の獅子さ勝でる筈あんめぇでや。慾張りすぎて失 敗。とうど爪抜がしてしまう始末だけど。
 「慾張る鷹は爪抜がす」ちゅあ、こっから出たごんだど。
  どんぺからんこ なえけど。

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