14 すずぐれ恵比寿

 昔あったけど。師走五日は「すずぐれ恵比寿」どて、これは百姓の恵比寿祭て言わってる。この日は、幾品(なんぼしな)も豆料理こさえで、豆づぐしで振舞いするもんだ。
 まず勘定してみっか。大豆を入れで炊いだ豆ご飯だろ。お汁(つけ)は身は何でもええども、打豆入れで煮で、これで二品。三つ目は三杯酢豆で、祝い事にゃ欠がさんなえ。ほれさ寄(よせ)豆腐どか、煎豆の油味噌も、いつでも出来る。特別この日に限ってというものどなっと、赤膾とこづき豆だがな。
 黒豆で豆膾にすっと、おろしがひとりで赤ぐ色ついで、とってもきれいだし、味も佳いもんだ。こづき豆じゅあ、豆腐で出来でるよだども、これは大豆を煎ってから挽臼でひいて、ほれさ糯米入れで鉢ン中でしとねる。それ握って、一ぺん火で焙いでがら煮るといい。家によって少しは伝授がちがうどもな。どうだ、もう七種類(しな)ぐらいなっか。略(やつ)さないで、せめでこのぐらいはふんぱつしねばなんねべじゅ。
 昔、料理の名人が頭しぼて豆料理考えたど。どうにか四十五品は浮んだども、縁起でなんとか四十七にしたいと思たど。でもどげえ考えても、あど二品だけは浮がで来ながったてよ。
 そしたら、頓智のええ人いで、ほれにゃ手まめ、足まめ加したら、丁度になんべて言たけど。なるほど、それやええごんだていうなで、この日はまめに夜業する習いが生ったど。
 男人達なら藁仕事、小ちゃこい男童でも、小毛縄なう。女子(おなご)人達は麻糸紡みでも裁縫(ぬつけ)でもええ、童達でも雑巾縫たて良いさげ、手に針持づごと。ほして夜業終えだら、みなで豆腐焼きして夜食だ。手まめ、足まめは家内中達者(まめ)で暮すように― ていう祈りもあって、これは何時までも続けてほしい祭だもんだ。
 どんぺからんこ なえけど。

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