11 ぐみ節句の仕来り

 昔あったけど。九月の月には節句が三度ある。九日ど十九日に二十九日。初めの九日は菊節句ていって、古からの都の習いばまねで菊の花摘んで酢物にしたり、合えだり、いろいろ菊のご馳走をこさえ、お汁(つけ)さも花びら浮すやら、風流に菊酒で祝うもんだ。
 次の十九日は武士だか、町場で祝う節句かな。でもこの日は百姓達だて河原がらぐみの実を採って来て、膾(なます)なんかこさえで祝うでや。ぐみの実さ熱湯かげっと、白いぶつぶつじゅ渋が除れっさげ、とってもきれいで、うまい料理できるもんだ。
 何ていうても、後の二十九日は刈り上げどて、こっちは本番。この日は餅振舞いで一番上等のお祝い。百姓してないどげた家でも餅搗ぐ、「刈り上げの餅は乞食(ほいど)も橋の下で搗ぐ」どてな。
 臼やこしき使わないたても、糯米炊いで、ほれ袋さ詰め、堅いもんさ打つからみ打(ぶ)つからみするど、ひとりで餅えなる。とにかく、三日のうちで最後(しまい)の九の日は百姓達一番ぎん張(ば)て振舞いするどごだ
 とごろで、九まだ苦ていうこんで、それが三つあっさげて、「苦三(くみ)」だ。ぐみの実の膾にして厄(やく)を消すていう所から、こういう季節のご馳走も考えらったもんだろ。
 それど、各(どの)九の日にも畑から茄子もいで来て、茄子の古漬けに入れておく。それを元日になっと出して、厄(やく)払いに、家族(えのひたち)みんなに食べさせるていう家がある。
 桶ン中で、せっかくの苦三の茄子が、他(ほか)んなまぎれるどわりいどて、三個ずつ組合せ、みげて結んで漬けておく。これならほっても間違えっこなえ。
 苦三ばなし(茄子)― ていう縁起で、謎かけでえだども、厄さえ除(と)れだら、何よりだ。
 どんぺからんこ なえけど。

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