9 不動さままぶた田螺

 昔あったけど。或所でな、火出してお不動さま祀てある御堂も丸焼げなたけど。火ば護(まぶ)てくれる神さまを焼出すなんて大変なごとしてしまたは。なして火ば粗末したんだか、罰かぶるごとしたもんだでや。ご本尊さまも外さ出しかねたつけが、何も祟りがなげればど誰だて思たべ。かけつけて来た人達もそれどわがて、おそるおそる焼跡片づけだど。そしたらば、どうだ。木彫りで出来てるご本尊が、焼芥(やけごど)の中から傷跡一つつかないで出はてきたどごだど。これにはまず、みなも動転してしまたけど。
 一体、どうしたことだべ。神さまのご利益て大したもんだ。安全な所(ど)さ持ち出すどごろか、水かける手さえ無がったていうのに、ふしぎな事もあるもんだ。
 それというのも、よっくど見っど、なんとゴマンという田螺(つぶ)が、どこの沼や田圃がら集まて来たもんだか、お不動さまの体さ、どこと言わず、ここといわず、一分の隙間もなぐ吸いついで、護(まぶ)てあげだ模様だけど。このことあてからが、田螺のかっこうしたものみつけっど、お不動さまさ納めるようなたど。
 昔、倉建てっ時、荒壁ぬんなに生田螺三粒つかまえてきて、塗り込んだもんだ。火防ぐ呪文だべな。また春になって、初めて雪どけの田圃がら田螺ひろてくっと、「三粒屋根越してから家さ入れろ」てな、これだて防火の呪だんだ。
 篠竹ば二尺ばりに切ったら、先っぽさ割り入れる。ほさ田螺の粒こはさんで、この竹の棒ば、勢いよく振りまわすど、挟んだ田螺が遠くまでふっ飛んで行く。こうしっとなんぼ高え屋根だて越すなは、童達だて楽々造作なえこんだ。こんだから、初田螺、屋根越すな忘んなえでしてみろ。
 どんぺからんこ なえけど。

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