7 花折り祭

 昔あったけど。ながねのてっぺんの一番見晴らしの良え所(ど)さ、裾の村々で一緒に祭てる神さまあるもんだ。太平山どて、四月の九日がそごのお祭りだ。
 祭りには一釜餅どてな、糯米ふかして搗いで、そのまんま山さ運で、太平山さ供(あ)げて祝う。ほしてな、山さ咲いでるきれいな花こば手折て、家さ迎えで来るもんだ。
 この遊山は若夫婦達が、おぼこ連れでお参り行ぐ祭りだども、四月十七日にゃ、運開ぎどてな、今度(こんだ)は年寄りだの祭りで、あまりきつぐなえ、近間の見晴らしの丘さ行て遊山すんだ。若しかそれが無理な大年寄りだどしっど、往還の十字路か、合道(あへみち)なってっ所(ど)さ、ゴザでも敷いで呉って重箱開きさへっちゅんだな。
 道の開げんなが、運の開げるしるしていう意味なんだべな。道行ぐ人達、馬方(んまひき)なり、童達なり、誰かれなく声かけてもらって喜んだもんだろ。長えごど雪の中での暮しだったさげ、花こなど見だら、かくべつな気分わいだもんだろよ。
 花たってな、本当は何でも良えじもんではなえ。春一番にさぎがけて咲くなは「万作」だ。雪の下からでも咲いで出るていうがら、これ見っど、いよいよ春ぁ来たなていう気なるし、万(よろず)の作良しで、この花こごって咲いてる年は豊作としたもんだ。また辛夷(こぶし)も縁起良え花でな、天くらふいで(上向きに)咲く年は上作、うたがいなしていう花だ。
 山吹の花はきれいだども、家さ採てきては駄目。この花ば馬に見せだら、おんごどすっとて叱られる。馬に黄金の因縁からか、まだは山吹にゃ実がならないていう縁起からかな。ガザキもお蚕(こ)さま嫌うどて、屋敷ン中さ生えるなも嫌(きら)たもんだ。
 ほさ来っど、喜ばれんなは藤の花だ。お蚕さま置ぐ家でなの、藤の花咲ぐころなっと、わざに山さ行ても、蚕棚さかざるもんだ。お蚕さま藤色になっど上作だて言うて。まだ「藤の花には虫喰いなし」どて、花房が元から先まで、ぞくっと揃て咲くなで、ほれさならて、お蚕さまもムラが出ないようにてな。早すぎっとも、馬鈴薯(にどいも)掘って、いっしょに「養蚕神(こげえさま)」さ供(あ)げるでゃ。とにかく、藤の花みでえに揃て咲く花も珍しいな。…花迎えの唄、おべったが。
    次郎ンこ 太郎ンこ 花折り行がねが
    何花折りや きごの花折りよ
    一本折ってや ひっ担ぎ 二本折ってや ひっ担ぎ
    三本目にゃ日暮れで 茅野さ泊って
    朝間早ぐ起ぎでみだれば 月のような娘子(めらし)が
    足駄はいで杖ついで 黄金の銚子で酒注いで
    爺も一杯 いーやいや 婆も一杯 いーやいや
    いやいやの薬師詣りに行ぐどて 犬にワンと吠えられて
    とって返してみだれば 竹の節見つけだ
    ガックリ割ってみだれば 赤い鳥十二 白い鳥十二
    十二の中に 三才なる駒こは
    あっちゃ向いても チョッチョッチョ
    こっちゃ向いても チョッチョッチョ
    チョッチョッチョの流行る時ァ
    飢饉ァ流れろ 流れろ
    福ァこっちさ止れ 止れ

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