6 山神さまのお花遊び

 昔あったけど。三月三日て言えば、女子童達はおひなさま飾りだし、男童達も山の神さまのお花遊びどて、どこも子供祭りたてたもんだ。
    山の神の宝楽 一升給(たも)れ勧進
 ながねに祀てある部落(むら)の山の神さまを迎えで来て、家毎(やごめ)勧進してまわる。銭上げでもらったり、米もらたり、節句でもあっさげて、鯨(くじら)餅、えんがら饅頭など、んめえものもたんともらうんだ。その晩に宿でいだだき物で大好きな「色付御飯(しょうゆまま)」を炊いでもらって、子ども達ばりで振舞しっとこだてや。十五なる男の子が一番の頭になって大将、後は年の順に副将、三将と家来ばきめる。もらいものの分配(わっぷ)も、みな童達まがせ、ちゃんといさかいもなぐやるもんだでや。
 何時の年だったがな、悪童達(きかなしだ)の、んとそろた年だったんだ。三本杉のながねさ祀てる山の神さま迎えでくっ時、ご神体ばソリ代りにして馬のりなてだけど。ホーホーて、ひらば滑り下りて来っけど。毎年奉納する小さえ木偶ばかつぐなめんどう、だとて、数珠つなぎに、ゆっくらげで雪の上引き摺ってくる。堰端さ来たら、今度(こんだ)はイカダ流しで水漬けだけど。
 大家の年寄り、まだそれ見つけで、罰かぶるごとやめろどて、しこだまごさえだ風だちゃ。でも童達、肯(がって)しながったど。
    山の神の勧進 にんぎり地ン蔵参った参った
    祝て給(たも)れ
    山の神の勧進 米一升十二文
 集落(むら)さ下(くだ)て、家毎に勧進してまわたべ。ほして、さきだごしゃがった爺さまの家さも行たべちゃ。
 誰か、爺さまちゃ、給れ給れ、今一升給れ―どて、まと催促(はた)たないだけど。ほしっと、爺さま、米一升なて言わなえで、担げるごんだら一俵まんま呉れるて、稲庭に積んだ四斗入指さして、からがたどこだど。体も小さえなで、まさがど思て卑(やし)めだろう。「本当が」て、念押したと思ったら、みごどえ担がったじょん。こん時ぁ爺さま、手すってあやまたつけな。
 こげだごとあた翌年だけがな、いつもの神下しん時だ。山の神さま出はてきて、ほん時の言ばすかすかと語てな。まずおどろいだんねが。誰もおなかば(巫女)さつげ口した者もあんめえに、山の神さま、またなもなも覚えった口振りだけど。
 お花見にゃ祠から出はて、童達と一緒なて遊ぶのば何よりの息抜きにしてる。なんたいたずらなどさっでも、うれしいなださげ、どげた事したて、ほっても叱らなえでもらいだえ。どうか、この日だけは童達と存分遊ばせでもらいだえ。てだど。ちゃんと、以前(しょでん)のごど分がてて言うさげ、本当に、動転させらった。
 あん時の童達が…みなたぐましくなて、兵隊にとられ、戦争(えくさ)さ行て、ていした手柄たでだ者(な)もいだでや。
 どんぺからんこ なえけど。

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