4 狐とお稲荷さま

 昔あったけど。大国主命さま、お若えころに、唐の国がら天竺かげで修行に行がしゃったことあっど。そん時、天竺で米ていうもの初めて召上てな、こげだうまいもの食たごとながった。なんとか日本さ種子ば持ち帰って育てだえもんだど思われだど。
 困ったごとには、他所の国さの持出し厳しくて、なんぼ願ってあったども、なんじもなんなえけど。悪り事だども、こっそり持ち出すより道あるめえ、ほれにゃ、人間よりも獣の力借りる方が目立だなくてええじゅなで、狐さ話持ぢこんで手伝てもらう事したけど。
 ほれも運わるぐ感づがってしまたど。狐あへえほで(大変に)追立(ぼたて)られ、とうどたげたたなぐなて(やり切れず)、一時(ひつとえ)手放すごどしたど。ほれでも追手のすきねらて、くわえてきた稲穂ば大急ぎで穴掘て隠したべ。後でかくし場所わがらなくなっといげないて言うわけで、目じるしに葭(よし)一本折って来て、ほささしておいだどごだど。
 さぁ、これで大丈夫ていうなで、狐ぁずる賢くわざと追手の前さ姿さらして、とんだりはねだりして、おれは何もわるいことなどしてなえちゅどご見へだろ。追手もうまぐ騙(だまぐら)かさって、後追うなあぎらめだけど。
 ほとぼりさましてがら、隠し場所さ行てみっと、誰にも発見(みつけ)らんなえでちゃんとあったど。掘起して、無事、大国主さまさ手渡したなで、やがて日本さ渡すごども出来たわけだ。今日ぢゃ、日本国中で稲作て米の飯も食えるようなたじゅんだ。ほん時の手柄で、狐ぁお稲荷さまのおそばで、別当どして仕える身分なたなだど。
 今、種おろしすっ時、苗代のまんなかさ葭一本突立てんべや。あれは狐ぁ天竺で稲の穂たがたな発覚(わが)て、追(ぼ)っぱらわって、かぐした時の目印にした由来がら、ああすんなでな。きっとお田の神も天から降りられるとき、種おろした苗代の目当にもなさってんだてよ。
 どんぺからんこ なえけど。

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