1 正月の作試し

 昔あったけど。もう師走の声きくど、何がど忙(へわし)なぐなる。十三日には正月事始めどて、早え家では煤掃いして、新しい蓆を敷き替えたり、正月用の白い米もこの日に搗いだもんだ。歳末(つめ)も一そう迫て、二十五日には納豆も寝へなんなえ、大正月の餅も二十九日はさけて搗く。そうなっと、男人達て女子人達て大忙しだ。
    正月ァどこまで キリキリ山のかんげまで…。
 正月さま、そんまござんだぞは。
 その年神さまじゅなな、日に一升飯あがるお方だそうで、自分(わあ)、食扶持(ぶち)どして一斗のお米ば背負てござんなだど。正月ァござた、何さのってござた、ゆづり葉さのって、ゆんづりゆんづりござた…てな。
 はるばる出雲を立って、家々さお着きなさんのは年越の晩だど。ほして卯の日までいでくださるそうだ。卯の日が遅ぐ来ても早ぐ来ても、なっても卯の日にはお帰りなんなだど。その間、もし神さまの滞在十日以内だったら、背負てござた米で間に合う見込みだどもな。ひょっとしてほれ越すよだと、食い込みたてる計算なんべ。
 そごでだ、卯の日早ぐ来てくれで、神さまのお米たんと残るようだど、今年は上作だて言うし、一方、食いごみたてるようだど、悪(わり)ごどに作は悪いどしたもんだ。この占い、早え話が、正月の卯の日早ぐ来る年上作で、遅いど不作だていうごど。
 しょでんから(昔から)「若勢たのむなら、正月の作試しみでがらにしろ」てな。上作と出たら言うごどなえども、不作と出たら若勢雇うなば控えんだ。― なえでも暮しはつめだがええてだろ。この試し、あだっか外れっか気つけでみだら…。
 どんぺからんこ なえけど。

>>安楽城の伝承 目次へ