17 蚯蚓(みみず)の泣ぎごど

 昔あったけど。百姓達(だ)も八朔(はっさく)来っど、もう昼休もなぐなて、夜仕事しなぐなる。「秋縄百束」てな、秋始末さ使う縄ない始まるでやは。ほして夜仕事してっと、半戸前(はどまえ)の縁の下だの、雨だれ石の間こあたりから虫こ鳴ぐ。それ聞くじゅど、そんま雪来っかど思て気ぁ気んなぐなるでやは。
 ほげだ時(づき)だんだな、蟻こ達(だ)忙(せわ)しなぐ稼ぎまわんな見がげんな。土ン中の蚯蚓まだほれ見で、「何(なえ)だ、どこだべ、何が起きだべが」て、おどろいでたずねっけど。ほしたら、
「いよいよ寒ぐなて来たなで、冬越しの仕度さかかったなで、ここんどこ、どうもお天気定まらなえなで、仕事はがえがなくてよ。まだ降て来そなたなで、一所懸命なて運でっとごだでや」つけど。
 蟻こ達ばりでなえ、地上(おもで)でや、誰もかれも皆、冬場の食物のことでもちきりだけど。蚯蚓もこのさわぎさ、まきこまれそうなて、自分(わあ)身さつまさって心配(あじごと)なて来てあったべ。
「やがでにゃ、おれ達(だ)もなじなるもんだがなや。ここえある土食い上げだら、後はどさ行て食たら良えべじゅ。明日食う土のごど心配で、眠らんなぐなた」つけど。ほう言て、蚯蚓は土ン中で、淋しい声で泣いでっけど。
 おがしいんなぇが、この広い世の中さ、蚯蚓食うくらえの土もなぐなるなて、なや。ほれでつまらなえ事ばくよくよして心配しんなば、蚯蚓の心配(あじごと)ていうなだど。
 どんぺからんこ なえけど。
    軒下で淋しぐ鳴ぐ虫の主はオケラだが、昔は蚯蚓でないかと、こんな昔
    話も語られた。

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