16 田螺の口説

 昔あったけど。或時(あっづき)な、湿田(やっこだ)さ棲でだ田螺(つぶ)、まだ古稲株さたぐついで(しがみついて)、日向ぼっこしったけど。
 ほごさ、蜻蛉(あげご)、水呑み飛んできて、
「天気よくて良えあんばえだ。こげた時に山さでも遊び行てみだら、なんぼか気持良えんだが」
て、田螺どご誘てみんなだけど。田螺ごとしては、この湿田から一足も他所さなど出はたごどない。連れで行て呉れっさえすれば、どさだて行ぎだえな山々だどもよ、鴉ていう黒鳥がおっかなくてな。見つかっと、どこだもええ、堅いくちぱしでジャギモギ突つき破られ、あげくにゃ食(くわ)ってしまうもんな。んださげて、鴉の脚の丈の立だなえどこにど思てさ。いつも泥んこなて、こげた湿田にばりいんなよ、ていうなだけど。
    田螺どの 田螺どの 山さあべ
    山さ行げばな
    鴉という馬鹿鳥が
    オッ転ばしたり 突ッついたり
    雨ぁ降っじゅど
    その傷 ジックモックど 病(や)み申します
てだけど。
「んでや田螺さんの、天が下で一番おっかないものじゅあ、黒鳥が」て、きいでみだど。ほしたら「んだなゃ」て、少し考えったけつけや、「ほれより、日頃苦々(にがにが)しくてなんなえごと一つある」て言うけど。
 ほれじゅもの、人間が田螺どこ卑(いや)めで、「田螺ひろい」て言うて取て行(え)ぐごどだど。
「おらだ、何も好き好んで、田や沼さ落ぢでんな、んなえ。棲んでんなださげな。鴉なんかどちがて、人さまになら命捧げても良えなだども、決して落ちこぼれなのんなえさげて。どうが田螺拾いてば言てもらいだくなえなよ。拾うなでなくて、勝手に捕って行ぐなださげて、これがらは山菜(あおもの)採(と)り、雑魚(ざつこ)獲(と)りみでえに、田螺取りて言てもらいだえもんだでやな」
 おひなさまさ供(あ)げんべどて、手桶さ入(え)って泥吐がへった田螺もまだ、ほげ口説くけど。
 どんぺからんこ なえけど。

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