14 熊茸(ししだけ)の由来

 昔あったけど。この山ン中さ生っで、都さ奉公出さった娘(おぼ)こいだけど。よぐよく在郷衆だども、何た縁があったもんだがなや。身分の高え公卿さまに見染めらったどごだど。
 でも、あんまり身分がちがうて言うなで、まわりがらあれこれ言わって宿さがりなたけど。二度と都さ上てくるんでなえぞて、固く言い聞かさって、公卿さまの留守見計らて帰さったど。おっかなえ御供の衆に見守らっでださげ、どうにもなんなえ。泣ぐ泣ぐふる里さ帰て来たべ。
 後で公卿さまもほの事わがて、娘ばとり戻すべど、この山里ば聞ぎ聞ぎ採して来たけど。でも家来達に後追(ほか)けらって、もう少しでと言うどご、追(かつが)っで引き止めらったけど。
 一目でええさげて、娘さ会わせで呉ろて言うけつけどもな。会えば未練残すばりだどて、無情にも会わせなえなだけど。
 ほんでや、仕方なえさげて、せめで娘の暮してる集落(むら)だけでも、のぞける所(ど)さ登らせで呉ろてだど。いどしい話でなえが。見晴しのきぐ丘がら、もしや恋しい娘の姿でもとらえらっだらと、願いこめだどごだべ。
 一方(かたっぽ)、娘こごとしては何も知らないで、田圃(ともで)さ出て働いったら、何だか芳い香りただよてくっちょん。これや都の匂いだ、ただの一時だて忘ったごどのなえ、あの方の香りにちげえなえ、てだど。微風が運んでくる匂いの方ちゃ独りで足向ぐみでぇだけど。
 近くの高台(たい)さ登てみだれば、何だか遠ぐの方で「ホーイ、ホーイ」て叫ぶよだけど。風のせいだが、耳のせいだかな、だんだんにゃ自分の名前を呼んでいるよにも聞けっけど。でもすぐそこまで恋しい公卿さまお越しなってるなんて考えられもしながったべし、例えそうどしても、まわりが気使て想いを遂げらへでくれるはずもながったろ。
 ほれがらじゅもの、娘こ何がさ憑(つか)れだみでえに、来る日も来る日も、ほの、ながねさ上ってや、都の方向ば眺めで、泣ぎくづっでだけど。やがてにゃ、とうど、わずらてしまて、命ば縮めでしまたどごだど。
 きっと、ほの娘の化身(なりがわり)だんだな。このながねさ茸の出るよなたなな。ほの茸じゅぁ、真黒で、見場は悪くてやっちゃなえよだども、香りの上品なごとは天下一品、しかもこの茸、よぐ香りの通じ合うよな、ながね、ながねさ出っとごだど。それもまるで熊(くまのしし)でも寝ったがど思われっが、大きさでも、こごらでや一番だべ。
 とにかく、在郷の娘こみでえで、見たどこ悪いども、香りの高いどこは公卿さまていうどごだべちゃな。
 どんぺからんこ なえけど。

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