13 みづ食い過した大蛇

 昔あったけど。餅ていうど目のなえ樵(きっきり)親父いでな。或時(あっづき)、山の神さまさ供(あ)げんなださげどて、丸餅(こもち)ば大振りに十二もとらせで、山さ背負て行たけど。
    十二山の神の勧進(かんち) 祝てたもれ 祝てたもれ
 樵小屋さ着いだら、さっそく山の神さまさ餅あげで拝むながど思たば、荷物おろすえがも早ぐ、餅あぶりさかがたけど。神さまさより自分(わあ)口の方忙(せわ)しなくてな。
 十二も持(たが)てきたんださげ、一つぐれえ何ちゅごどなえべじゅごんだべ。あぶたれば、とっても良え香りしてきたじょん。これや一つじゃ我慢できそもなえ。もう一つさ手伸びだど。どうせ二つ食たたて、後さ十も残るんだもの、ほんげにゃ目につくまいじゅどこだんだ。とごろが、あんまり美味(んま)くて、
「見だもの三つ」て、もう一つぐらいはど、まだおまけしたどごだど。ほしてや、残たな勘定しったけつけや、九つでや「苦」で縁起悪いさげ、もう一つ減らした方ええんだどて、なんだかんだ自分さ都合の良え屁理屈つけて手つけんなだけどよ。
 あげぐにゃ、十二の神さま達(だ)、喧嘩なっと悪いさけ、どうせこうせ、皆平らげんべなどて、一つ残さずいっぺんに食てしまたどごだど。
 普段よりも大振りにとらせだ丸餅(こもち)ださげ、一升餅はゆうに越してる。腹くちくて身動きなんなえもの出来たべ。こういう時は「餅食て寝なえ者は馬鹿」ていうさげ、横ンなることだどて、仕事ば休でだど。小屋の土間(にわ)さミノ敷いでひっくり返て高いびきだけど。
 ほごさ匂いばかぎつけだ大蛇這(は)てきたけど。鹿でも猪でも丸呑みするくらえだもの、人間だて楽だもんだべ。まして親父ぁ眠たまま正体(ほんてぇ)なえさげ、大蛇まだ大口あげで一息に呑みごんだど。
 なんと、あれほどの餅食たばりの人間ば丸呑みしたさげ、大蛇も腹一杯で大変だったべちゃ。体むじんなも楽でないがったろ。ほごで、下の谷間さおりで行て、みづ(うわばみ草)探して食う勘定したけど。
 蛇ぁ、何蛇でもみづが好物で、何か大喰いしたり、消化(こなれ)わるい物なの呑みこんだ時にゃ、きっとみづば食うもんだど。山さみづ採り行たら、まず蛇ぁ葉っぱなめだ形跡(あど)なえが、よっくど見とどげでがら手かけるもんだ。あわてて隠っでだ蝮(くそへび)に手噛まれる災難さあわなえども限らなえさげな。みづ採りはくれぐれも蛇さ気つけらんなねもんだぞ。
 とにかく、ほごにゃあんばい良(え)ぐ鎌で刈るくらえも、どっさり生えつめったけど。大蛇ごとしてや、これまだ卑(えや)しこえで、長ンげえ胴腹パンパンと張るまで詰めごんたどこだべ。とうど食い過しては、そさ伸びでしまたけど。
 なんせ、体(み)の内外がらみづさ漬たもんだもの、薬も効ぎすぎで、やがてにゃ自分(わあ)体まで溶けで形なぐなてしまたけど。もちろん、腹ン中の人間も溶げでしまたんだな。ただ餅ばりちょこんと草の上さ格好変えで残ってだけど。
 これみっど、みづってよっぽど消化(こなれ)良えもんだべな。他の野草(くさ)どちがて、冬枯なても、みづ殻(がら)て見へなえ。ほれで「みづ」ていう名ついだて言うさげな。
 なんせ、十二の神さまさ、餅供(あ)げなえ罰かぷて、こげな始末なたったべな。
 どんぺからんこ なえけど。

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