12 宇賀さまの餅

 昔あったけど。正月の十一日は「農始(のびらぎ)」で、一番鶏鳴ぐつと、男人達総出で、堆肥(こえ)背負いするもんだ。上がってくっと藁仕事さ移て、朝餉にゃ堆肥背負いさ加(か)ざた人達さ、宇賀の餅二つずつひいでお祝いするでや。
 宇賀の餅じゅあ、丸いこ餅ば一と所凹(どこへこ)まへで、鎌形にとる。そこが水口じゅわけで、昔よぐあった段々田(がつきた)の形さなぞたもんだべ。
 囲炉裏で、ほの餅焼いで食うべどしったどさ、客(ひと)来たけど。いつもお父さと連なて山さ稼ぎ行ぐ人で、今も誘いきて呉ったどこだべちゃ。餅好きな人でな、餅て言うど、何食(いぐがたけ)続いても良えていうくらい、目のなえ人だったど。
 こういう時は、皿こと箸、すぐ出てくんなだども、多分宇賀の餅は家の人数さ合わせ、特別の恰好でとるもんださげて、客さ出すどこなどながったべ。
「今日は宇賀の餅ださげ、他人(ひと)さば上げらんなくてな」
て、家の嬶さ言うけど。
 客はてっきり好物さありづけんべと、ほれごそ舌なめずりしったったべ。ほご見せづらがさって、よっぽど気さかがてあったろ。とにかく、それでも二人連れ立て山さ向たふうだ。
 とごろが、餅食せながった家のお父さが、荷物背負ったまんま、雪道足すべらして、さら転でしまたどごだど。ちょっと手借してもらうべと思て、自分(わあ)手出したども、連れでば、何と思たもんだが、
「今日は宇賀さまだもんな。なんぼ助けでやりだえど思ても、今日ばりは出来なえつけもんなぁ」
どて、つれなぐずんずど先ば歩いで行てしまたけど。
 餅のやり返しのつもりで、ちょっとからがたどごだったべ。でもな、宇賀の餅じゃ、そこの家の堆肥背負さ加(か)ざた人んなえど食んなえどさっだもんだ。男わらしだち、ほの餅欲しくて、小(ち)ちゃこい堆肥俵こ作てもらて、背負て、田さ連れで行てもらたもんだ。してみるど、堆肥背負いは百姓おぼえる初めでもあったんだな。
 どんぺからんこ なえけど。

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