11 大黒さまの嫁こ

 昔あったけど。大黒さま、旅さ出らった時(づぎ)だど。この日、餅搗きだったとめえで、どさ行ても餅出さったじょん。
 辞儀(じんぎ)して、さっぱり口にしなえも悪いど思て、行く先々で、じゅんぶくなたども、我慢して頂いたふうだちゃや。
 ほの無理ただて、腹さげるほどくちぐなて、あげくにゃ、七転八倒の苦しみ、悩みだけど。こういう時、大根さえ食えばなぁど思い、どごさが無えんだが、気つけったど。ほしたば、良えあんばいに沢っぷちで、姉こ大根洗いしったな見つけたど。これぁありがたえちょんで、そばさ寄てよっくど、わけば話し、その大根一本分げで呉ろて頼(たの)だけど。
 姉こ、ほれ聞いで言うにゃ、
「気の毒なこんだ、んでもな、この大根はおれの物でなえさげ、旦那さまさ、ことわりなしで、上げちゅわげにいがなえ。これだけたんとあっても、ちゃんと数かぞえで、あずげらったなだ。んださげ意地悪いごとするなでなえども、どれでもていうわけには参らなえなよ。んでもな、股(まっか)大根だて一本が一本だべさげ、ほればボキンと折ったて数は減りはしなえんだ」
どて、股大根の良さそうなえらんで、かいで呉ったけど。
 この姉この機転のおかげで、大黒さまも腹やみもおさまて、大助りしたけど。いよいよそこ立つ時(づき)、「何もお礼するもの持てなえども、餅食う時、大根欠がさなえど、腹さもだなくて良えもんださげ、おべでおくどええ」て、教(おへ)でくっだけど。
 ほれがら、姉こまだ大黒さまの教ごとば、ほごらの近所の人達さも伝えだんだ。この村でや、どこの家でも、餅振舞いの時にゃ、今もきっと短冊大根の味噌汁作り、最名餅(とめもぢ)は大根おろしを使た「ざい餅」か「絞り餅」で食いおさめるごどにしてんだでや。
 ほれさ、大黒さまのお年越には、大黒さまの嫁取りどて、股(まっか)大根ば供(あ)げでお慰めするごどしてんなだど。
 どんぺんからんこ なえけど。

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