7 納豆ねへの元祖

 昔あったけど。馬喰まだ馬こかって、これ肥育(こや)して、七折返し八折返しにも高ぐ売てもうげんなだけど。
 あるづき、飼育(あづげえ)よぐ、大豆(まめ)など煮て食べだべちゃ。ほしたら中に選(え)り好みする悪い癖の馬こいで、かんぶり振って飼桶(ふるおけ)がら大豆えっぺぇ溢(こぼ)すじょん。
 ほの豆、厩(まや)の隅(すま)こさもこっとなて溜ったったべ。馬喰あ見つけで、「この畜生、もったいないごど」どて、しゃぐり上げでみだれば、豆あ糸引いで粘っちょんな。
 これぁ何たあんばいだと思って、よぐ嗅(か)いでみだどご、何となく美味(んま)そな香しっちょん。そごで豆ば指でつぶしてみたべ。ほしたら変味(すれ)でなどいなえ。何ともなえよだ。かえって前より芳し匂いする。これを投るにゃもったいなえじゅなで、別の馬こさ、ちょぺっとやって試(み)だどごだど。ほしたらその馬こまだ喜んで、まと(もっと)欲しいどて、はだる(催促)けど。
 んだらばどて、こんど自分(わあ)もちょぺっと試してみだべちゃな。舌ざわりといい、味といい、これぁたしかに食(け)んぞ。ただの煮豆どとんとちがてしまた。煮豆が藁の上さ溢っただけで、こんげになっこんだらば、初めっから藁苞さでも包で、ねへでみだら、もっともっと美味(んまぐ)でぎんねがてだど。ほっから納豆じゅもの工面さったなだけど。
 んださげてな、納豆ねへるにゃ、苞(つと)ば包(くる)む茣包みの中さ、くつわやたてごなど、馬具入れだりする。まだその包みばまるたり、囲炉裏端さ下げだりするのにも、馬の道具綱一式使うど、納豆はよぐ粘るどしたもんだ。そればりが、
    カンブネザの奥までも
    馬々 糸引け 糸引け
 この呪文ば三度唱えで苞作るじゅど、よえていう秘伝使う人もあっと。
 カンブネザじゅあ川舟沢(部落名)のごどで、昔ぁ小又川も川舟はここまでしかのぼらなえがったど。こげた奥(いり)までも糸長(なんが)ぐ引いで行ぐようにて祈んなだべ。
 こげに納豆ねへる呪文も秘伝も、馬さかがわりもつどこ見っど、この話ぁまんざら嘘(ずほ)んなえんだな。
 どんべからんこ なえけど。

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