6 糞(ばば)詰めた藁苞

 昔あったけど。あっどさ、ねっずい(しみったれた)て、ねっずい爺さまいでな、ほれごそ道歩いでで立小便すったて、肥料(こやし)もったいないどて、唯ン所(ど)さばしなえ。ましてや、他人(ひと)の地所など肥してらんなえてだど。わざわざ自分(わあ)地所まで回り道しても堪えてきてたれる。そのくらい気つけだ人で、誰がらも魂消(たまげ)らったもんだど。
 正月ぁ来て、爺さま、正月礼廻たじょん。何軒も梯子(はしご)かげでご馳走なたもんだべ。行た先々から残した肴ばお包みに藁苞(つと)さ包でもらて、機嫌よく帰て来たべちゃ。んでも、あちこちであんまりご馳走なたせいが、途中で出だぐなて、とでも家まで保(も)ちそうながった風だ。んだなよ、大と小ど一緒だ。ほんでも、今日みでえな格別ご馳走の効(き)いでる肥は捨てで行ぐなんて、もったいなえ話だ。考えっど、うすい方ならまだしも、濃い方は何とか持(たが)て帰りだえもんだど。路端さあった、どごがの家の藁におから藁引っこ抜いできてな、苞こばこさえ、そさたれで持(たが)ぐごどしたけど。
 いよいよ、腹ン中キリキリと鳴って、どうしても我慢できなぐなた。人眼につかなえように、ほてこやら(雪溜り)さ踏みこんで、しゃがまて野糞したど。用達してがら、尻拭う物もだなえなさ気付いで、傍のやっこい雪掻っさらて、握て、それで拭て始末したどこだど。
 ところが何時も、喉かわぐど雪玉握て噛(かじ)んな癖で、そればあぶなぐかじっどごだったじょん。ハッと気付いで捨んべどしたども、肥料分(こやしけ)ついでっさげ、いだましぐなたべ。思い止まて、この雪玉も持(たが)ぐごとしたど。糞苞(ばばつっと)と、それに家々のお土産(つづみ)苞と持たなで、同じよな荷物が数なたべちゃ、苞さげた手、くたびって持ち替えっ時(つき)など、初めよぐ気付けで扱てだったども、やがてにゃ、どれどれが見境(みさげ)つかなぐなたんだは。
 そのうち爺さまの持ぢ田ばすぐ目の下にした前坂のどさ来たけど。肥ばこの田さ置いで行ぐべど思(も)てな、まず雪玉の方ば、高みからボエンと投げでやたど。ほれがうまぐ水口ンどさ落ぢだなで、あそごなら雪解げっと肥料分(こえけ)みな自分(わあ)の田さ入っさげ、一番良えていうなで、苞もその辺をねらて、反動つけで投げてやたど。これもうまぐ届いだなで安心したべ。やっと腹ン中まですっきりしてきて、気持よぐなてな、爺さま家さ着いた時(づき)にゃくぐぬぎ唄(鼻唄)だけど。
 上機嫌で、「婆あ、今きたぞ」て、戸の口開げるなり、お土産苞つき出してよごしたなで、婆さまもニコニコて迎えで受け取ったべちゃ。
「こんげにいっぺえ、ご馳走あっこんだら、ばんげ何もしっことなえはな」
て、さっそく炊事場(みじや)で開けてみだどごだど。ほしたば、とんでもなえ臭(にお)えおした一苞出てきたべちゃ。婆さまカンカンなてごしゃえで、
「どごの家で、こげたもの包(つづ)でよごしたどごだ。他人(ひと)から怨みかう覚えなどなえ」
て、力(りき)むなだけど。ほして、このおした苞あずげでよごした家ば思い出せどて、爺さまどごば、でごぐる(攻め立てる)ども、爺さまごとしては精魂(たまへ)抜がして、ただキョトンとしったけど。
 なんぼなえだて、正月だでば、縁起でも無ぇ、こげだ真似していしゃたがる(からかう)人も居めえ、家の爺さま、酒呑むど、たわえなぐなっさげ、途中狐に逢って騙さんなえども限らなえ。よぐ酒酔人(さげよつと)まだマンジュウのつもりで馬糞(だんくそ)あづけらった、なんて話きぐども、婆さまの口説(くどく)なもほのごど想い浮がだがもしれなえ。爺さま、まだちちゃこぐなて、おそこ知らぬ振りしったけど。そんでも心では、あれこれねっづぐ(詳細)思い返してみだけべ。
 はでさて、ほの苞ばこさえだな確かにおれだ。ほればどごでとう取っ違えでしまたがな。ほっちの手こっちの手と渡し替えだ時がな。ど、いろいろ考えれば考えるだけ、こんがらがって来て、わがらなぐなるばり。田さ投げっ時に、も少し念おせばと悔(くや)でも、もう遅がろ。いまさら田んぼさ行て苞取りかえでくんなもおがしい。いっそ、このまま狐のせいにしてた方がええがしんなえていう気なたんだな。
 狐ごそ迷惑な話で、爺さまが田さ投げだなお包みは、後で見つけでご馳走なたがしんなえ。でも自分(わあ)から人騙して、糞苞までつかまえるなて、ほんな狡猾な真似はした憶えはなえ。「皿なめた猫」て言(ゆ)うんだ。とんだ濡衣着たもんだでやな。
 どんぺからんこ なえけど。

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