3 馬喰につかまた狐

 昔あっどな。「ながねのゴザこ祭」ていえば、とってもにぎわった祭りでな。西川のながねのてっぺんさ建ってる太平山は、裾さ散らばた西川、太平、平枝の三つの集落(むら)の人たちで祭てる、別に祠は建ってなえども、石碑の建ってる平(たえ)さ、ゴザ敷いで夜(よ)っぴて呑み祭すっどごだ。集落の人達でば、餅搗げは一臼、おふかしふかせば、二しきまんま、山さ背負い上げてお祝いすんなで、他所からお祭りさ招ばったお客にも露天(おにや)で振舞うとっから、ほういうゴザコ祭りて言わったなべ。んださげ祭りていうど、よぐあたりほとりの乞食(ほいど)たち、かぎつけて集るみでえに、狐達も祭後さ、何がご馳走残てないが、落ちこぼれでもど思(も)て、寄てきたもんだべ。
 何しろ、このあだりには人を騙すくらえの狡猾な狐がたんと棲でだもんで、まずあげてみっど、丸山の万九郎に丸子、舘の白狐、北坂の仁兵衛、小橋の小豆とぎ、ながねの信五郎、萩野台のハル子ていえば名代の化け師で、言(ゆ)てみれば差首鍋狐の七人衆ていうどごがな。中でも北坂の仁兵衛狐は、もともと智恵のある狐で、よぐ若い狐たちばそそのがして、いたずらしては人困らへだもんだど。今日もここさ来る途中で、滝の上の五介馬喰が馬ひいで上(のぼ)んなど会たべ。なえしたが、気に食わなえごどあったんだな。うらみもっては仕返しやんべじゅ企(たくら)みだべちゃな。
 馬喰ぁ馬ひいで上たどご見っど、ほの馬ばどこがの厩さ納めで来るに相違ない、ほうせば自分(わあ)家の厩は空(あ)ぐなで、良え馬ひいで行たら、きっと馬喰(ばぐ)だがんべ。何処が出所(でどこ)のわからなえ馬喰さ化げで行てみだら、これあ面白(おもへ)ごどなんべぞ。今日は五介も酒入ってっさげ、うまぐのって来んにちげえない。落ちこぼれべえつら(奪い合い)するより、蒼前祭のご馳走出させだ方、なんぼ増(ま)しだが。どて、みんなどごけしかけっけど。ほしていよいよどなれば、言い出した仁兵衛まだ何だかんだ言て、自分(わあ)加(かざ)らなえで、まず信五郎どこ青馬の大牝馬(がんじゅ)に仕立で、年上の万九郎は馬喰で、小豆とぎまだ引き子なて行ぐごどなたけど。さあお天道さまも西山さとっぷり沈んで、これなら化の皮も易(やす)やすはげなえべじゅどごで、この偽馬喰だち、滝の上の本当の馬喰家さのりごんだどごだど。
 五介も今しがた帰って来て、ちょうど腹すかして囲炉裏端で、粃餅(しなもち)焼ぎながら腹あぶりしったどごだったふうだ。そごさ、
「秋田の矢嶋がら、とびきり上等ば引いできたどごだ。ちょっと見でくんなぇが」
て、誘(さそ)たどごだべ。んでも、五介、まだどうしだが、いっこう気進まなえふうで、それていうなは、馬の善悪は夜間(よんま)見だて、わかるもんでなえ。馬は臆病たがりで、どげた疳(かん)のつよい暴れ馬でも、夜になればぺそっとなて、音なぐなるもんだ。月明りで馬見で馬喰しろなて、つぶし馬であるめぇし、一体、この野郎達(やろだ)、本当に馬喰だか、あやしい。どっから来たんだが、秋田あだりがら山越して腹へらしたなで、何かありつこうと寄た、んねが。あいさつされりゃ、晩飯ぐらえ出して呉んねんねべども。それにしてもわざわざ立て行ぐごともなえだろ。まず婆さまに対手(あいて)させ、
「買うにも買わなえにしても、馬ば厩さ入っでおいで、話ぁ家ン中でしんべ」
て、出わせだど。ほして、空(から)なった厩さ馬ば入れさせ、二人は囲炉裏端さすすめだどごだど。
 引いできた馬ば、あれこれど「万才(へげそろ)」みでえに誉めっけっけども、五介ぁかえって乗ってくる気配見なえじょん。腹ン中では夜明げだら、ゆっくり見で、気に入ったら馬喰(ばく)てもど思てんなだべ。先は赤えお膳こで酒出して呉っで、探り入(え)っだどこだべ。なんぼ上手え化けだつもりでも、酒が入てがらは、どうしても尻尾も出しやすいもんだ。五介はこ知らぬ振りして酒すすめで気付けっだど。どうも酒盃持た手見っど、すぽっとして小節がなえようだ。ほれさ、さっきから厩さ入れだ馬も、おかしいごどだらけだ。
 昔から言(ゆ)たじゅんだ。「囲炉裏の横座さ座ていで、厩ン中の馬の面(つら)見えるよだ家 だど福相だ」て。五介も横座がら厩ン中は気付けったべちゃ。ほの上、何度も厠(うら)(便所)さ立つふりして、美味(しま)そな秣(んまのもの)ば放込(ぶこ)んだり、秣桶(ふるおけ)さ米糠どっさり撒(ま)いで呉っだりすんども、馬ごとしてはちっとも食いつごうとしなえけど。ほれやほのはずで、狐だどすれば藁や草葉など食うはずなえさげて、五介、まだほれさ、とっくに感ついったなだべ。婆さまさ言いふぐめで、なんぼでも諸味(もろみ)持てこさせ、狐の大好物だていう油揚げまで用意して、酔っつぶしてやる勘定したべちゃ。
 偽者たち、すっかりその手さはまて、じゅんぶく(十分満杯)なて、やっと厩さいる仲間ば思い出したんだな。
「まず、出直してくっさげ、今日は、んだら、まず」
どて、暇乞いしっけど。このまま帰えらっでは、せっかくご馳走したな台無しなる。五介と婆さま、よっくど唇合(あ)せで、
「遅ぐなたんだ、泊て行げ」
どて、やぁやて(けんめいに)引き止めだけど。偽者たちも、つぶれるくらえ酔ってんだし、少し横なて、酔いさましてがら逃げんべじゅ気起して、ほんでやていうなで厄介かげるごどなたど。ほして案内さった奥(いり)の座敷にや、もう寝床二つ並べで敷いであっじょん。婆さま、まだ、
「あいにくど、枕はねずみに噛らっだなで、間に合(あ)せで我慢して呉っちゃ」
どて、出したなみだれば、長ぇ匏。まるで頬かむりさせだみでぇだけど。ほら、よぐ、小豆や黒豆など入(え)っで、囲炉裏のそばさ下げておくべ。匏の枕なら寝相わりても逃げらんなぇでええがしんなぇな。
「ゆっくり休んで呉ろ」
「ほんでや辞儀なし休まへでもらうべ」
て、あいさつ交して、家の人たちは座敷下(さが)たべし、客たちは床さ入たべな。ほしたら何だが、におうてじょんな。くんくんて鼻きかへで、かいでみっど、枕の中がら好物の油揚げの香してきたから、たまらなぐなたけど。まわりさわがらなえよう音立てないで食うにゃ、匏の中さ面(つら)突込(つこ)だ方ええど、みだべな。とごろが何しろ五、六升から一斗近ぐも豆が入(へ)んべさげて、奥深えもんで、面突込むどすぽっと、首根(くびと)までかぶさてしまた。除(と)んべと思て、後ひっこみしても、猫さ紙袋みでぇで、外(はず)んなえ。乱気なて顔振(かんぶり)しても抜なえで、匏ぁ辺りさ打つかるたんびに、カタンカタンて音出すなだけど。
 家の人だち、それ聞きつけで、頃はよしど、用意しておいだ縛るもの持(たが)て、奥さ行たべ。狐ごとしては匏冠て、目隠しさったと同じこったさげ、家の人たち、ひっとづも(少しも)難儀しなえで生捕り出来たべ。もう、どげだ事あっても逃げらんなえように、馬の道具綱でぐるぐる縛りつけで、土間(にわ)の柱さくぐりつけでおいだど。夜が明げだら集落(むら)の人達(ひたち)招(しょう)んで、狐汁して祭りすっとこだべ。それにしても一度に二匹の狐捕(と)っどは鉄砲打ちだて、滅多なえごんだ。ええ勝負したもんだて喜んだどごだど。
 ところで、馬に化げて厩さつながった狐、まだどうしたが。貧乏くじ引いで、ご馳走さありづけなかったども、危うぐ矢来もぐて逃げたなで、命だけぁ拾ったんだど。
 あのな、ええ馬をたでる(飼育)人じゅあ、秣(んまのもの)ばやりっ放ししなえで、ちゃんと、ほの食いっぷりまで見届ける。ほしたら馬まめだか、体のかげんどうだかわかる。五介馬喰、つねづね身につけでだなが、大手柄のもどだったんだど。
 どんぺからんこ なえけど。

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