41 生き行灯

 むがすむがす、この殿さまていうな、いずれの殿さまでも、民百姓のために、すばらしくおめぐみがあったていうよりは、しぼり取ったというのが余計残っているのが、常なわけだ。
 んで、あるところの殿さまも例にもれずして、やっぱり搾取がひどくて、ほら年貢、いままでは九尺が一間としたものが、六尺になり、五尺になり、四尺が一間にさっではぁ、田がらびりびり、びりびり年貢とり立てるようになった。
〈百姓とゴマの油、しぼるほど出る〉
 ていうぐらいで、びりびり絞らっで、橋かけでも丸木橋だと低いもんだから、毎年丸太流さっで困る。何とか板橋欲しいて考えでだったて。そしてクラで高くつんで、洪水で流んねようにしたいて、村人考えだげんど、ほの費用がながった。しめて三両ぐらいかかる。何とかうまい方法ないべかなぁていたれば、村一の智恵者徳兵衛さんていう人考えだ。
「いや、ある。殿さまなて、あだいしているもんだか、殿さまを舞台にして一芝居()つべ」
 て、村人が相談した。
「われわれがこういう風にして、あれするのも、殿さまからお金お借りするのと同じだ。結局は……。橋作って橋渡って行ってって、百姓するんだから、殿さまさ年貢あげるんだから、殿さまも、あれぐらいんどこは、してもらわんなね。ただ正面からもらい行ったんでは、殿さまからお金なて頂だいできるわけない」
 こういう風にして考えたの、〈生き行灯〉ていうこと考えた。ほして、生き行灯ていうな、どういうなかて言うど、夕方になっどパァッと点いで、朝げになっどすうっと消える。はいつがほれ、徳兵衛さんの軒場さぶら下がったわけだ。ほして、村中の人が下馬評とばすわけだ。町さ行って。
「いやいや、たまげた。たまげた。徳兵衛さんの軒場さぶら下げっだ行灯が、生き行灯だ。夕方になっどパァッと火点いで、朝げになっど、お天道さま上がっずど、すうっと消えでしまう。すばらしい行灯なもんだ」
 したれば、はいつがほれ、どういうわけが、殿さまの耳さ入った。
「これこれ、三太夫。それを見てまいれ」
 ていうわけで、二、三日、様子見に来たれば、やっぱり夕方なっどパァッと点く。朝げになっど、すうっと消える。
「これは手数のいらね不思議な行灯だ」
 て。して、〈かよう、かようでござりまする〉て、報告した。
「うん、三太夫。買ってまいれ」
 て、三太夫が買いにきた。
「なんぼだ」「三両だ」
「行灯一つ三両ていうバガな話ない。五両で首とぶ時代に、三両なていうバカな話ない」
 て、三太夫がひらき直った。それでも売らねには仕方ない。どさ行って聞いでも、「行灯は大したもんだ」ていうし、「すばらしい行灯だ」ていうし、殿さまさ行って再度相談したら、
「苦しうない。買ってまいれ」
 ていうわけで、三両で買ったわけだ。ところがカラクリていうのは、火縄さ火点けておいで、はいつが段々(だんだえ)燃えて行くど、クマノホクチていうて、火薬でガマの穂ば煮た奴さ火ついで、はいつさつくと、同時に油さ火つくことになっていた。朝げになったれば、消えんな、油なくなっから消えたんだど。
 ほして、
「行灯も生きもんだから、少し慣れるまでは一日(ひして)、二日かがっかもしんない」
 てだど。ところが一日つかね。二日つかね。仕方ない。三日つかね。点くわけないっだな。四日たっても五日たっても、点かね。ほのうち点くか、ほのうち、点くがているうち、しびれ切らして、殿さまは、
「徳兵衛、呼んでまいれ」
 て、こういうわけで、徳兵衛さんが呼び出さっだわけだ。
 ほしたら、村人は心配したんだどはぁ。
「ああ、あいつぁお仕置きになる。三両の金をもらったげんども、困ったもんだ」
 と思っていだって。したれば徳兵衛さんが殿さまどこさ引張って行がっで、行ぐより早く行灯さ行って、
「あららら、行灯、お前死んだんだどれはぁ。殿さま、何も食せて呉ねがったが。水も飲ませて呉ねがったが。ほんでは、十日も飲まず食わず、お前生きていらんね、生き行灯が死に行灯になったんだはぁ」
 殿さま、何にもして呉ねな、自分の落度だずも。ほれ。ほんでやむを得ながったって。して、とうとうそれで板橋掛けで、ゆうゆうと暮したんだってな。どんぴんからりん、すっからりん。
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