17 背の低い医者

 楢下の医者で、長清水(上山市)の出で、石井先生ていう人いだった。ほの先生は知恵でこりかたまったみたいな人で、小っちゃい先生だった。
 せんに、どこの家でも馬飼っておくもんだから、馬暴ばっで何とも仕様ない。梯子(たが)ったり、脚立(たが)ったり、竿持ったりして行ったげんども、何ともおさえらんねくて、村中、ししゃますしったて(手に余ったそうな)。
 ほしたれば、ほの、垣根のかげから竿さ吊した人参ぶらさげて、ひょいっと()出した人いだっけど。馬は人参好きなものあるもんだから、ほこさピターッと止って、人参食いはじめたど。ほしたれば、
「誰か来て、押さえてけらっしゃい。誰か来て、押さえてけらっしゃい」
 何だ、人いたような、いねようなと思って、ほだえ()っちゃこくて、あばれ馬とりおさえらせだ子どもいだったて、はいつがそこの医者だったて。んだから()っちゃこいときから頭すぐれていだんだったべねぇ。
 この医者の「阿呆目薬」はええ、火傷(やけはだ)の膏薬は跡残らねていうので、遠くから来っかったものなぁ。
 孫めんごくて、博覧会さなの、背負って()て行ったったことあった。
「吉之助、何見てきた。面白いがったが」
 て言うたら、
「さっぱり面白くなかったっす」
「なして、何見てきた」
 て言うたら、
「じんつぁの背中ばり見てきた」
 て言うた人だったど。
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