弘法伝説

 大井沢さ弘法さまが托鉢に行ったれば、クズフジもないどこなんだ。少しはあっても、全然増えね。
 そのころ、ある人が弘法大師さまさ、鱒をクズフジで、大師さまの背中に背負わせだんだって。大師さまだから、生ぐさものは食ねでしょう。それを背負わせたから、
「ここさ、クズフジ出んな、クズフジ出んな」
 て、錫杖でついた。
「鱒のぼんな、鱒のぼんな」
 て、こう言った。んだから大井沢さ、鱒のぼんねがった。

 そう言えば、「サケノスケ、今ここ通る」て聞いたもんだな。んだから夕方暗くなってから外さ出んなってな。旧十月二十日の恵比須講の晩のことだ。サケノスケていうのはどだなものだか知しゃねげんど、サケノスケにさらわれっから、外さ出るもんでないと言うたもんだ。
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