2 蛇聟入

 むかし、うんと日照りの時に、水掛けらんねで、百姓が田さ行って眺めっだところが、蛇が出てきたんだと。
「じんつぁ、じんつぁ、水掛けらんねごんだら、オレぁ掛けて呉(け)っから、オレと約束すねが」
 とだと。
「娘一人、オレんどこさ嫁に呉(く)れねが」
 そうすっど、水掛けて貰われるばりええくて、約束したんだど。
「三人いた娘だら、一人ぐらいええがんべから呉れる」
 とだと。そして約束してから、
「困ったこと言ったもんだ。娘に嫌(やん)だと言わっだらば、困ったごんだ」
 と思って寝て、次の朝に行ってみたらば、だっぷり水掛ったごんだと。そして、
「なんだ、じんつぁ、水掛けたから、約束の娘一人呉れっか」
 と言わっだごんだと。そうすっど、困ったわけだごで。娘さ相談しないでこういうことを言ったもんだから。家さ帰って来て、蒲団かぶって寝ったごんだと。そうすっど、朝げの御飯(おまま)出たもんだから、一番上の娘が、
「オトッツァ、オトッツァ、御飯あがれ」
 と迎えに行ったごんだと。
「オレ、こういうことして、蛇に水掛けてもらって、娘一人呉れっことに約束したば、水いっぱい掛けてもらったなよ」
 とだと。そしてその娘さ、
「お前、蛇んどさ嫁に行って呉(け)ねか」
 と言うたんだと。そしたば、
「何語っているんだか、この腐(く)っされじんじぁ、蛇の嫁になってられんめえちゃえ」
 と言わっだごんだと。そうすっど、二番めの娘起こしに来たんだと。二番めの娘にも同じこと言うたんだと。そうすっど、二番めの娘にもけなさっだんだと。
「困ったもんだ、いま一人しかいないんだ。いま一人に嫌(や)んだと言わっだら、なんとも仕様ない」
 と思っていたらば、末の娘ぁ起しに来たもんだと。そしたらば、
「こういうことで水掛けてもらったげんと、姉さだ二人承知してもらわんねんだ、困ったごんだ。お前オレの頼み聞いて呉(け)ねか」
 と言うたらば、末娘はやさしい娘だったほでに、承知して呉れたんだと。ただ嫁入りに頼みあると、
「フクベンを千(せん)と針千本、嫁入り仕度に呉れろ」
 と言うて、そいつを持(たが)って、池さ入って行ったんだと。そしてそいつを蛇さ呑ませて、蛇を退治して帰って来たと。とうびんと。

 蛇は水の神の使いという考えがないものでもないが、ここでは猿聟入りと同様の話となっており、鉄気に蛇がよわいので、針でさされて死ぬという話となっている。
(大橋 三瓶ちの)
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